木々の間を縫うように走り、辺りに気配がないのか探りなら身を潜める。そして次の木に飛び移り、サクラはとある場所を見下ろした。 「あれ…ね。見たところそれほどの手練れってわけでもなさそうね」 「下忍が多いが中忍程度が二人、それを統括してると思われる上忍一人ってとこだな。まー大勢引き連れてきたことで」 ヒサメは木によしかかりながら、ご苦労様でと呟く。サクラはそれに相づちを打ちながら、何か指令を受けているらしい彼等を眺め続けていた。 「どこの…ってのはわかる?」 「いや。少なくとも有名どころではないな。額当てもしていないし。まぁ、人のもんを横取りしようって腹の奴らが、身元を知れるもんを付けてるわけもないが…変な奴らに目をつけられたものだぜ」 口調は面倒くさそうだが、顔はそれとは正反対。ただの護衛として来たものの、一暴れできる機会ができたと彼の顔は嬉しそうだ。そんな彼にサクラは一つ忠告。 「…余計な手出しはしないでよ」 「…何言ってるんだよ。お前と一緒に来た奴らで追い払えるわけねぇだろうが」 「そうだけど、相手の目的が私達の巻物なのか、それとも他のものを求めて来たものかわからないじゃない。人数を間引いて貰うのは頼むけど、明日になったらもう居ませんでしたっていうのは止めて欲しいの」 慎重な行動を願うサクラに、ヒサメは舌打ちする。どうやら彼はこの後忍達を消しに行くつもりだったらしい。 (まったく…油断も隙もないっていうか…はぁ) サクラの護衛という任についているせいか、暴れる機会を見つけたヒサメは絶対にそれを見逃さない。どちらかと言えば好戦的な彼は、本来護衛という守備任務は好まないのかもしれない。だが手を貸して貰うとサクラが言ったので、取りあえず機嫌はそれほど悪くならなかったらしく、だが若干つまらなさそうに敵の姿を眺めている。 「ナギが戻ってきたらその辺のことを言って置いてね」 「りょーかい」 偵察は終わりと身を起こしたサクラに、ヒサメはひらひらと手を振った。他の場所の偵察を願ったナギが戻るのはもう少し遅くなるだろう。本当は待っていたかったのだが、一緒に来た仲間に不信を持たれるわけにもいかず、散歩という言い訳が通じる時間程度で帰ることにする。ヒサメは彼等を監視する為か、走り出すサクラを追うことはしなかった。家の中に入るまでぴったりと着いてきた頃に比べれば、少しは自分の腕を信用してくれるようになったのだろうかと思う。 「…あれシカマルじゃない。何してるのかしら」 今日やっかいになる家の庭を見下ろして、縁側に一人座っているシカマルを見つけたサクラは木の上から首を傾げた。まさか自分達を狙っている輩に気付いたのだろうかと思ったが、彼の様子をしばらく眺めていると警戒した様子も見られず、ただ眠れなかったのだろうと結論づける。 「なんだ…びっくりした」 なら考えていた言い訳が通じそうだとサクラは庭に降りる。突然現れたサクラにシカマルは驚いたのか目を丸くしたが、サクラは彼から追求される前にとさっさと部屋に戻る。部屋の中では、疲れていたのかコウメがすやすやと寝息を立てていた。恐らく自分が抜け出したことも気付いてないのだろうなぁと思いながら、彼女の穏やかな寝顔に笑みが零れる。 「こらこら、忍がそんなんじゃいけないんだぞ」 まだ幼い彼女の頭を撫で、サクラはふっと顔を上げた。サクラの気配が部屋に戻ったこと確認してから消えた気配は… 「……ヒサメむかつく」 サクラは一気に不機嫌になり、冷たくなった布団に潜り込んだ。 「またせてすまなかったね」 「いえ。では確かに受け取りました」 巻物を受け取ったシカマルは、一夜のお礼も兼ねて深く頭を下げる。他の三人もそれに習うと、手を振る彼等に背を向け帰路につく。 「優しい方たちでしたね」 「そうだな!飯もうまかったし!」 あとは帰るだけということもあってか、気を抜いた雰囲気を漂わせるムスビとコウメ。サクラはそんな二人を見て、自分が下忍だった頃を思いだし、小さく笑みを浮かべた。 「…二人とも。まだ任務は終わってないんだからな」 そこへ先頭を歩いていたシカマルから忠告され、二人は顔を強張らせすみませんと頭を下げた。そしてしばらくは会話も最低限に抑えられ、静かな道のりを進んだが、昼頃の休憩では少しだけ砕けた雰囲気を取り戻した。 (まだ何か仕掛けてくる気配はないわね) 水を一口飲みながら、サクラは周囲を伺う。ナギやヒサメからの合図もないことから、敵はまだ動き出していないのだろうが油断は禁物だ。サクラはまだ口を動かしている下忍の二人を他所に、早々に休憩を切り上げ立ち上がる。 「おい?」 「その辺り見てくるわ」 サクラの返事に何か言いたげなシカマルだったが、彼は眉を潜めただけでそれ以上追求してこなかった。サクラの行動にのんびりしていた二人は慌てたが、それを制してサクラは木々の合間に消える。休憩場所から離れすぎないよう気をつけながらサクラが進んでいくと、ザァッと葉が鳴り、目の前に人影が現れる。 「夜営を取る付近に奴らの待ち伏せがあります。偵察は一名。サクラ様の影分身を見張っていますからご安心ください」 「…そう。やっぱり仕掛けてくる気なのね。ヒサメは?」 「あいつらを見張ってます。サクラ様達と戦闘になった時、こちらも動く予定です。よろしいですか?」 「うん、お願い。悔しいけど私達のメンバーじゃ、待ち伏せの相手を全部倒すのは無理だから」 「承知しました」 面を取っているナギは小さく微笑んだ。サクラと話す時は殆ど面を取るようになったナギ。それはこれだけ自分が信頼されていると思って良いのだろうかと、サクラは笑みを返す。ただ、もう一人の方はいちいちつけたり外したりするのが面倒だと言って、被っていることが多いが(おそらく初めて彼の顔を見た時の態度が気に障ったままなのだろう)。ともかく、彼らがついてくれることに心強さを感じながら、サクラはナギと別れ部隊のところに戻っていった。 「…まもなく、木の葉の奴らが到着いたします」 「そうか。お前ら手順はわかっているんだろうな」 指揮官と思われる男が背後を振り返り、部下達が頷くのを確認する。 道を照らしていた太陽も、そろそろ眠りの準備に入ろうとする時間。 「たった四人。皆殺しにして、奴らが受け取った巻物を奪い取れ」 男の言葉に部下達は散る。 太陽が赤くなり始めた。 さくら (2006.1.1) |