海原に歌う小鳥

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夜も更けた頃、港町は昼間とまた違った活気に満ちあふれている。
表通りから一本外れれば、煌びやかなネオンが夜の疲れを癒そうとする男達を向かい入れる。そして、その男達を誘うのが店の前にいる素肌も露わにした女達。
女の艶やかな唇から発せられる声に、男は足を止め次にはその肩を抱いて店の戸をくぐる。
首を回すこともなく、どこでも見られるその光景に、花を添えている一人の女がこちらに近づいてくる男へと眼を止めた。

「お兄さん。そっちはアンタの満足する花なんてないよ」

薄暗い道に足を踏み出そうとしていた男はその言葉に足を止める。その隙に女はするりと男の腕に自分の腕を回し、一夜の喜びを与える体を男へと押しつける。

「ねぇ…馴染みの相手がいないんなら今日はさ…」

自分のところにと言葉を続けようとしたが、男を見上げた女は自分を見下ろす視線を見て硬直する。

無機質な眼だった。
自分を視界に入れ無言で女の行動を非難している。その、あまりに感情を感じさせない眼に、女の腕が力を失う。そのまま固まってしまった女を気にすることなく、無言のままで背を向ける男。全身を黒い服で包み、片手は袋に包まれた長いものを握りしめていたことに女はようやく気づく。

「…なによ」

そう気負ったものの、震える体は誤魔化しようもなく、女は自分を抱きしめた。そして今見たものを忘れるように、やってきた新しい客へと向かっていったのだった。



その扉を開けた瞬間突き刺さったのは歓迎ざる視線。しかしそれに臆することなく、男はゆっくりと視線を動かす。その目が奥に陣取っている男達へ見つける。カツンと店の中に歩き出した男を、しんとなった店内中の視線が追いかける。

「…何か用か?」

自分達のテーブルの前で止まった彼に、そこにいた一人の男が声を出す。彼は目的の男が自分を見るまで無言を突き通していた。

「何だ」

うっとおしいほど髪を伸ばした男は、そこでようやく自分達の所に寄ってきた男を見上げた。
真っ黒な髪を頭の上で一つに結わい、鼻の上には一本の刃物で付けられたような傷。

「…ここで仕事があると聞いた」

抑制のない声が初めて言葉を紡ぐ。彼の後ろには男達の仲間が立ち上がり、殺気を込めて睨み始めている。

「…仕事…ね。見ない顔だな、この街の奴じゃねぇな」

頷きもせず、言葉を待ち続ける彼に男は僅かに興味を示す。ふっと笑った男。
その合図に男の仲間達が一斉に彼へと襲いかかった!


「なるほどね…一人でここまで来れるわけだ」

彼が持ってきた刀を抜くどころか袋から出すことなく、全員を地面に転がした彼を見て男は笑い出した。静かになった店内に男だけの声が響き、それが終わるのを彼はじっと待ち続ける。

「ふん…いいだそう、買ってやるよお前の腕」

彼に向かって男はグラスを差し出す。大してアルコールの高くない安物の酒。しかし、それを飲み干せば契約完了となる。
薄い赤が彼の喉に消えるのを見送り男はそういえばと、彼に最も重要なことを聞く。

「お前の名前は?」
「…イルカ」
「偽名だろ、それ」

まぁいいさと笑う男は、イルカの視線に気づきにやにやと笑う。

「俺の名前はカイザ。知ってるとは思うが、貿易商ミズハ様の警備を任されている。お前はこれから…」
「大変だっ!カイザ!!」

大きな音を立て、入ってきた男は店内中に突っ伏す仲間を見てぎょっとした。だが、目的の人物が平静な顔で自分を見返すので、取りあえず疑問は横に置いておく。

「あのガキ共が…!」
「んだとっ!!またかよてめーらっ!!!」
「ち…違うそうじゃねぇっ!!!」

慌てて首を横に振る男を、カイザは睨みつける。男はこれ以上カイザの機嫌を損ねるまいと、急いで言葉を続けた。

「襲われたんだよっ!あいつらを奪われたっ!!!」
「んだとっ!!!」

さっと顔色を変えたカイザは、言い訳を続ける男を無視して外に飛び出そうとしたが、すぐにイルカを振り返った。

「来い!初仕事だ!!!」

すぐその言葉に従い、イルカは彼の後を追いかける。そんな2人に取り残された男は慌ててそれに続いた。



奪われた…か。
自分を雇ったカイザという男を追いながら、イルカは先ほど飛び込んできた男が言い放った言葉に、気づかれぬよう唇を噛んだ。
彼らのアジトか何かが攻撃を受けたのだろうが、そこにいた子供が仲間ならば、奪われたとは言うまい。それはその子供達が別の意味を持っていることを否応なく知らしめる。しかし、奪われたとは穏やかではない話だ。まさか、三つに絞ったターゲットすべてが人身売買に関わっていたりしてと、嫌な予感に口元を引きつらせた。

「くそ…あのガキ共いつもいつも手間かけさせやがって…」

苦々しげに呟くカイザの言葉を聞きながら、イルカは前方に見えてきた男達を見つけ、僅かに顎を上げた。

「カイザっ!奴ら街の外に向かってる!」
「てめぇら何とろとろしてんだっ!さっさと追いかけろっ!」
「もうしてる!笛を鳴らしたから門は閉まっているはずだ!」
「じゃあ、次は港を固めろっつ!」

次々と指示を出すカイザに背を向け、イルカは怪我で呻いている男達を静かに眺めていた。
まだ襲われてからそう時間はたっていない。
ようやく手当をされ始めた彼らを見ながら、襲撃を受けたらしい家を見上げる。
ネオン街の中にあり、彼らのような男達が出入りしても何の違和感も受けない場所。しかし、表とは裏腹に中の警備は厳重なのだろう、カイザの部下らしき男達の持つ武器がそれを伝えてくる。
一夜の楽しみを求めてきた者達が、何事かとこちらを窺っているが、関わり合いにならない方が良いということを知っている者は足も止めず、ここから遠ざかっている。現に、野次馬を散らす男達に慌てているのだから、それは正解だろう。

しかし…これだけの警備がいる中を何故襲撃したのか?
それほど重要な『何か』がここにあるのか。イルカがふと感じた気配に目を細める。

「おい、つったってないでお前も…」

一人の男が、見慣れぬ顔に警戒を抱きながらも、手を貸せと声を上げようとした時、突如イルカが走り出した。

「お…」
「あそこだっ!!!」

はっと顔を上げたカイザ達は、屋根を走り抜ける影を見つけて気色ばむ。

「追えっ!!!!絶対に逃がすなっ!!!」

失態を取り戻したい男達は、カイザの声にいつも以上の殺気を乗せ一足先に走りだしたイルカを追う。そんな行動に気づいたのか、屋根を走る影達はばっと四方に分かれた。

忍か…!
迷うことなく、一つの影をターゲットに決めたイルカは、走りながら刀を入れている袋の口を開いた。

今回受けた任務に忍が関わっているとは聞いていない。ツバキ達からも届いていないから、彼らが雇われたのは最近だろう。

…容赦はしない。
まだ新参者の自分は雇われたとは言え、信用を得るまでにはなっていない。もしかしたら、敵対する組織からの回し者だと思われている可能性もある。現に…こちらを追いかけてくる男達のスピードは遅い。

試されているな。
本来、無用の殺生は好まないが彼らの中核に入るためには、非情にもならねばならない。ここで、彼らに使えると判断されなければ、例え雇われていても当たり障りのない仕事しか与えられないだろう。それでは、自分の来た意味がない。

「黒の部隊」の受ける任務は、ほとんどがSランク。だが、ただのSランクならば、上忍でもこなせるだろう。それなのにあえて「黒の部隊」にまわってくるのは、その任務の困難さと解決スピードを求められるからだ。依頼主が高額な金額を払うのは、大体がせっぱ詰まっている。その任務を予想以上に達成させることは、自分達の引いては里への信頼へと繋がることをイルカも良く知っている。
だが、そのために持たなければならない非情さは。
覚悟している者でさえ、目の前に突きつけられる度やはり辛い。

辛いが…逃げるわけにもいかず。それも自ら選んだ道ならば。

甘い…よな俺も本当に。
ふと愛しい子供が慕う銀髪の上忍を思い出す。
彼ならば迷わず、こんな考えなど持たず任務を遂行するのだろうか?

するりと、刀の鍔が現れ、何度も死線をくぐった友が顔を出す。イルカの追いかける影の向かう先は、行き止まり。昨日頭に叩き込んだ街の地図がそう教えてくれた。

迷うな。

自分を叱咤し、思考を切り替える。

任務を遂行する。

その声だけを頭に響かせて。


イルカは静かな殺気を纏い始める。



街を囲む高い塀に、影は小さな舌打ちを発する。一人では越えられるだろうが、何せ今は荷物を抱えている。先ほどまで五月蠅かったそれは、ぐったりとし自分に体重を預けきっていた。
影は四方に分かれた仲間を気にしながら、ふと自分を追う者達がまだ遠くにいることに気を抜いた。これならば、まだ身を隠してやり過ごすことができるかもしれない。
その別の場所を探すために、くるりと振り返った瞬間。

ギクリ。


気配も足音もせずに、その男は立っていた。
生ぬるい風が影の頬を抜け、男の元へと向かう。だが、その男に近づいた瞬間、その風はその性質を変え冷気と変化する。影はそれ以上動けず、乾いた喉からはひゅうっと空気がなった。今まで、それなりの死線はくぐったと思っていたが、この対峙している男は。

カツン。

一歩踏み出した男。その音を聞いただけで、影の全身から汗が噴き出す。

たった一人…そう、たった一人じゃないか!
怯えを振り払うように、影は男以外の人影がいないことに、少しだけ冷静さを取り戻した。だが、同時のこの男が、数十人を相手にするのと同じぐらい困難だということを理解させられる。

く…
ふと、左腕に抱えたものを思い出し、影はそれを男の見える位置まで引き上げた。

「そこをどけ…これが死んでもいいのか」

ぐったりとした小さな頭を男に見せつけ、影は追いつめられた笑みを男に見せた。



カイザ達がイルカの元へたどり着いた時、彼らは互いに動けない状況に陥っていた。
子供を盾にし、活路を見いだそうとする影とそんな彼を逃がそうとしないイルカ。拮抗していた2人は、後から現れたカイザ達の存在によってその微妙な関係が破られようとしていた。

「どけろと言っているだろう。この子供が死ぬのはそちらにとっても都合が悪いはずだ」

子供の腹に回している腕が強まったのか、意識を失っている子供が小さく呻く。その喉にはぴたりとクナイが当てられ、いつでもこの喉を傷つけられるのだとイルカへ告げていた。だが、それを見て慌てだしたのはイルカでなく、カイザ達の方だった。

「おいっ!道を開けろ!!」

悔しそうに、だが、子供の安全を優先させたカイザに、影はほっと安堵したが、一番自分から遠ざけたかった相手は一歩も動いていない。逆に影の行動を非難するように、瞳に力が籠もったように見えたのだ。

「どけっ!!!」

ここを逃げるよりも、この男と離れたい。
次第に焦り出す影だが、イルカはは一歩どころか、指先一つ動かそうとしなかった。ただじっと感情のない瞳で影を見続けている。

「おいっ!!!道を開けろっ!!!」

カイザがいくら怒鳴っても、イルカは命令を聞かず立ち続けた。影とカイザがイルカの行動に焦れ始めた頃。影の腕にいた子供が覚醒の声を出し始める。

「な…に…」
「どけって言ってるだろうっ!!!」

業を煮やした影は、子供を抱えたまま走り出す。引くのを待っているより、自分から進んだ方が早いと思ったのだろうが、子供の首からクナイを外したのは失敗だった。

目を覚ます前に。
まだ状況が良くわかっていない子供が、その目に焼き付ける前に。

チャリン。
カイザ達は小さな鐘のような音を聞き取った瞬間。

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!!」

不快な悲鳴と、ごとりと肩から落ちた腕。
反対側に抱きかかえられていた子供が地面に落ちる前に、イルカは刀を再び一双させた。

それは一瞬の出来事。
刀は影の心臓を的確に貫き、その命を奪っていた。ズリッと影の体が崩れ落ちる前に、イルカは刀を抜き子供を抱え込む。

その目に生命を失ったものを写す前に、己の体で覆い隠して。
だが、血の臭いは消せず、何事かを悟ったらしい子供は、一瞬びくりとイルカの腕の中で震えた。
イルカは子供を抱えて静かに立ち上がる。後ろでは、男の倒れる音が聞こえたが、それに目を向けることはしない。

あの音だけで十分だ。
それと血の臭い。
今自分が何をしたか、認識させるに はそれ以上のものは必要ない。
イルカは子供を抱きかかえ、唖然としたままのカイザ達へゆっくりと歩き出す。

「…お…まえ…」
「…どうぞ」

身を固くしたままの子供をカイザに渡し、イルカは彼らの視線にそれ以上答えず背を向けた。

疲れた。
無性にどこかで休み、眠りたい。そんな欲求を果たすべく宿に向かうイルカへ、カイザの声が響いてくる。

「明日あの店に来い!!!」

興奮したような、楽しげな声だった。それだけで、自分の評価が彼の望んだ通りのものになったことを確信する。軽く手を上げて答えると、イルカはそのまま闇の街へと姿を消した。



任務中に子供と関わるのは嫌いだ。
昔そんなことを言ったら、サイに困った顔をされた。子供の相手は疲れるといつも呟いている彼だが、かなり面倒見の良い彼のこと、子供を嫌いではないのだろう。だが、自分の言葉に同意するわけにもいかなくて、そんな顔をしてしまったのだ。
その後流れた気まずそうな雰囲気に、余計なことを言ったと反省したが。それは偽らざる本心だった。



「よ、悪いな。こんなことでお前を呼んで」
「…別に」

あの日から数日後、イルカはつねにカイザと行動を共にしていた。というより、彼がイルカを傍に置きたがったのだ。あの時の印象が余程強かったのか、イルカに向ける視線は好意的だったが、面白いおもちゃを見つけたように感じるのは何故だろう。
だが、仕事とそれはきっちり分けている人で、イルカを連れ歩くものの、その先は花街だったり酒の誘いだったり、会議があってもイルカを扉の前に立たせ中には決して入れてくれない。予想以上に用心深い人物だと、イルカは無表情も通しながらも、苦々しく思っていた。
と、そんな日々から3日後。いつものように、中にいるカイザを廊下で待っていた時、カイザの右腕らしい男が珍しくも声をかけてきた。

「ちょっと来い」

虚勢とイルカに対する恐怖心を僅かに滲ませながら、男はイルカを促す。子供を助けた日、イルカの実力を見て、喜んだのはカイザだけで他の男達には恐怖しか与えなかった剣術。新人の癖にカイザの傍にいることを面白くないと思っているようだが、突っかかってくる度胸はなく無視をし続ける男達。イルカの扱いに不満の声がでないのは、重要と思われる所は閉め出されているのを知っているからだろう。その中の一人が声をかけてきたことに内心驚きながら、イルカは男に従った。

今まで立入禁止となっていた廊下を歩きながら、イルカは男の真意を探るように背を見続ける。

まさかリンチ…とかじゃないよなぁ。
カイザの断りもなく従ったが、これで本当に良かったのかとイルカは思う。だが、内部に入り込んだというのに全く情報が掴めないところにいつまでも居続ける訳にもいかなかった。これがイルカの期待する一歩であれば良い、そう思っていると、前を歩く男が気を紛らわすように話し出した。

「アンタの刀裁きすごかったな。全然見えなかった」

少し裏返った声は、イルカと2人だけという状況に耐えられないと伝えてくれる。びくびくと揺れる肩は、いつ後ろから斬りかかられるか怯えているようでイルカは少し呆れながらも、折角の糸口を逃しはしない。

「…そうかな。そういえば、あの時の子供は…大丈夫なのか?」

子供がさらわれた原因を聞いても、のらりくらりとかわされ全く教えてくれなかったカイザ。無理に突っ込めば不信感を抱きかねなかったので、あれ以来質問することはなかったが、本当はとても気になっていたのだ。

間近で人が殺されたことを知って、子供はどうだったのだろう。
怯え、震え、精神に悪影響を及ぼしていないだろうか。
そうだったら、仕方がなかったとはいえ、胸が痛い。きゅっと唇を噛んだイルカだが、返ってきたのは予想外の声だった。

「ああ、へーきへーき。ぴんぴんしてる」
「…は?」

あまりにあっけらかんと言うので、思わず出てしまった間抜けな言葉。慌てて口を塞いだが当然誰もいない廊下は響き、男はくるりと振り返ってくる。

「…あんなもんじゃ、あのガキは驚きゃしねぇよ。それよりも…アンタ…」

怖いと思っていた人物の思わぬ顔を見て、男の警戒心が薄まる。よっぽど間抜けた顔をしていたのかと、イルカは顔を逸らしたが、それは男の警戒心を完全に取り払うものだったらしい。

「そんな顔もするんだな。いっつも無表情だから、もっと取っつきにくいと思ったぜ」
「…悪かったな」
「あ、もしかして口下手といかいうやつか?うわっマジかよーーお前を敬遠してた俺達は一体何なんだーー」

頭をかきむしる男に、イルカは苛立った顔を見せ、立ち止まった男をさっさと追い抜く。

「あ!俺より先に行くなっ!」
「だったら、早く歩け。とろい」

まさかこんな所で、あんな声を出してしまうとは思わなかった。潜入捜査には向かない自分につくづく嫌気が差すイルカは、追いかけてくる男を振り返ることができなかったのだった。



「だが本当に助かったぜ。あのガキを取り戻してくれてよ」

エンキと名乗った男は、話し好きらしい。
イルカとうち解けたことが嬉しいのか、聞いてもいないことを向こうから 、ぺらぺらと話してくれる。右腕と呼ばれている男がこんなんで良いのかと、情報を与えてくれることに感謝しつつも、複雑な思いでイルカは彼の言葉に耳を傾けていた。

「結局一人逃がしちまった。お陰で毎日雇い主から文句を言われてたまったもんじゃねぇ」

あの夜。何者かに連れ去られそうになったのは四人。三人は取り戻したものの、結局一人は奪われてしまい、雇い主…つまりミズハから相当しぼられ続けているようだ。
彼らがそこまでその子供達に固執する理由は何なのだろう。
イルカの任務は「小鳥」を探し出すことだから、子供達のことを気にする必要はない。しかし、毎日子供達と接しているイルカが、それを割り切るのは難しい。

やっぱり…甘いな。
任務中だというのに、こんなことを考えてと自分を叱咤していたイルカは、エンキが笑ったことに気づかなかった。

「さて、今日のお仕事だ」

扉の前に立っている男達と目を合わせながら、エンキが一つの扉を開けた途端。

「あーーー来た来たっ!!!やっとか、遅いーーーー!!!」

大声とともにイルカに飛びついてきた塊。
自分の腰あたりに手を回す小さな頭。

何だこれは。

イルカの言葉が聞こえたようにエンキが男達とともに笑う。

「今日からこいつらの護衛がアンタの仕事だよ。がんばれよ」
「…な…に?」

しかもこいつら…?
複数形を指し示す言葉にイルカが開けられた部屋を見れば、そこにはこちらを見る二対の瞳。

「俺ずっと兄ちゃんと会いたかったんだぜ!」

自分に抱きついている子供がひょいっと顔を上げた。呆然としていたイルカは、目の前で揺れた頭を見て目を開く。

「よろしく!兄ちゃん!」

そこにたのは、5歳ぐらいの男の子。銀色のどこか見知った顔の…


カカシ先生?


これは一体どういうことだ。
驚くばかりの今回の任務。
別の意味でのSランクだとイルカは小さく呻いたのだった。

(2003.12.12)