「お、これはいけるな。ふ〜ん、安い居酒屋の割にはいいもの揃えてるじゃんか」 「酒ばっかり飲んでないで何か食べろよ、サイ」 宿を取り、荷物を置いて近くの居酒屋に繰り出した二人は、久しぶりにゆっくりできる時を満喫していた。里に居ればこの時間はアカデミーで仕事をしていた筈。明日のことを考えず好きなだけ飲めることなど滅多にないということで、二人は好き勝手なことを話ながらこの時を楽しんでいた。 「でよ〜またツバキの奴が帰ってくるって言ってんだよ。アイツが来ると俺の神経がすり減るだけなのによ〜」 「前から思ってたけどさ、何でお前達仲が悪いんだよ。最初の顔合わせの時からずっとだよな」 心底不思議そうに首を傾げるイルカに、サイはがばりと顔を上げて拳を握りしめた。 「仲が悪いとかそういうことじゃない。合わないんだよ。アイツの顔を見た瞬間こいつは天敵だと認識したんだから」 「…天敵ねぇ」 「居るんだよこの世には!!必ずそういう奴がっ!!」 力説するサイにはいはいと、頷いていれば突然サイが顔色を変えた。 「どうした?」 ざーーーっと面白いように血の気が引いていくサイの顔。 まさか噂をすれば影って奴じゃないだろうな。そんなことを思いながら振り向けば。 「いや〜奇遇ですね、イルカ先生、サイ先生。こんなところで会えるとは思いませんでしたよ」 「カカシ先生っ!?」 里に居る筈の上忍がにこにこと手を振っている。そしてその後ろからは。 「不景気な面してるな?サイ先生」 「………アスマ先生…」 厄日だとサイが呟く中、二人は当然のようにイルカとサイの隣に来て腰を下ろした。 な…なんでこの二人がいるんだ? 「お邪魔します〜イルカ先生」 「え…あ、はいどうぞ!」 自分の横に座るカカシに場所を空けると、向かい側にいたサイの隣にアスマも座る。ちなみに、サイはこの二人を見た後ずっと口を貝のように閉ざしていた。 …最近遊ばれているらしいからな。 下手なことを言えば何かをされるとでも思っているのだろう。サイの顔が少し青い。 「二人は任務か?」 「ええ。そういうお二人も…?」 「まぁな」 タバコをくわえてにやりと笑うアスマ。しかしどうしたことか、いつもはサイの顔を見たら真っ先にからかうのにそんな素振りが一つもない。店員を呼び止めるアスマを見て感じた違和感。しかし、カカシに話しかけられそれ以上考えることができなかった。 「ここでのんびりしてるってことは、無事に終わったんですね〜」 「はい。明日には木の葉に戻る予定ですよ」 「いいですね〜俺も一緒に帰ろうかな〜」 「何抜かしてやがる。カカシ」 「え〜だってアスマなんかといるより、二人と居る方が楽しいもん」 「あの…カカシ先生…」 慌てたイルカを見てカカシは笑った。 …まぁ冗談だとは思っていたけど。 口で何と言っていても、与えられた任務はきっちりとこなす人だ。カカシがあまりに自然に言うのでつられてしまい、恥ずかしくなるイルカだった。 「ところでよ。サイ先生今日は静かだなぁ」 「……俺当分猿飛上忍とお会いしたくなかったんですが」 「あ〜?もしかして、こないだの任務のことまだ根に持ってるのか?気にするなよ」 「それは俺の台詞でしょう!?何で猿飛上忍がおっしゃられるんですかっ!!」 「まぁまぁ小さいことだろ」 「小さいことじゃありませんっ!!」 大笑いしているアスマと歯ぎしりしているサイ。二人のやり取りを目にして、イルカはぽかんと口を開けていた。 「なんでもね、こないだの任務。付き合わされたサイ先生が酷い目にあったとか」 「酷い…?」 「里にある一昔前のトラップ外し。何があるかわからないってことで、暇だったアスマが請け負ったらしいんですよ。それに運悪く付き合わされて…泥だらけになるわ、足が抜けなくなるわ、最後にはここぞとばかりの幻術のオンパレード。それ全部サイ先生に任せてアスマは後ろで見学してたらしいんですよ。サイ先生が怒るのも無理ないですよね〜」 小声で笑いながら教えてくれるカカシは、何故かとても楽しそうだった。 そういえば、珍しく授業休んだ時あったよなぁ…それだったのか? 「まぁまぁサイ。昔のことだろ」 「どの口がそう言いやがるっ!イルカっ!!!」 今回の任務も似たようなことで付き合わされたサイは、僅かに殺気を含ませて味方になる様子のないイルカを睨み付けた。それを見て二人の上忍は大笑い。面白くないのはサイだけとなった。 「今日はご馳走になってすみません」 「いいって、こないだの迷惑料ってことでな、サイ先生」 「…安すぎ…」 「あははは…だってよ!アスマ!」 イルカはサイをこづいたものの、二人は気にした様子はないようだった。しかし…あれから数時間も付き合わせていたが、大丈夫だったのだろうか?人通りも少なくなった店の前で、イルカ達は宿に戻るのでここで別れることになった。 「じゃぁな、お二人さん」 しかし、イルカの心配を余所に二人は何事もなかったように去っていく。彼らが気にしていないのなら良いかと、肩の力を抜こうとした時。 「っ…!」 「サイ?」 不機嫌な顔をしていたサイが緊張した面もちで空を見上げた。ぎりっと空を睨むその目は忍のもので、それまで漂わせていた気怠さは消え去っている。 「何か…来る」 何かを感じ取ったらしいサイの様子にただならぬものを感じたイルカは、同じように気を引き締め辺りを探り始めた。その範囲を広め、意識を遠くに伸ばした時、異質なものが近づいてくるのを感じ取る。 「術の気配か…?」 「わからん。けど…街の近くに放っておいた式が一つ消された。確認してくる」 任務についた時、サイは用心の為、必ず式をどこかに潜ませている。今回も街の外に式を潜ませていたのだが、その一つが何者かに消されたというのだ。 「忍か?式だと気付かれたのか?」 「わからない。だが、俺の諜報用の式は特別だから…ばれないように色々小細工を詰め込んでるんだけどな。ただの動物だと思われて消されたのかもしれないが…くそっ監視用の式にしとけば、何が起きたのかすぐわかったのにな」 失敗したと呟きながら、その場所へと向かうサイ。街を囲む塀をを飛び越え外に出たが、辺りは闇しかなく、異質な気配も感じ取ることはできなかった。 一体あれは… 「イルカ!」 別の場所を捜していたサイの声でそこに向かうと、つんと血の臭いが鼻に届く。藪の中に隠れているように倒れていた忍をサイが抱きかかえていた。 「これは…」 息はまだあったが、手遅れ。喉を潰された上に手足も荒っぽく砕かれている。 「どこの忍だ?」 地面に落ちていた血まみれの額当てを広い、サイがマークを確認しようとした時。 「どけっ!!サイっ!!!」 イルカの声が挙がり、サイは忍の体を抱えてその場を飛び退く! ドゴン!!! 「なっ…!?」 目の前から掠めるように現れた男。何とか攻撃を除けたものの、人を抱えていたことにより、サイはバランスを崩して倒れ込む。 気配が…なかった!! 「ちっ…!!」 イルカはクナイを取り出し放つ! しかし男は手でそれを弾き飛ばし、そのままサイへと手を伸ばした。 「クリーン……ヒットォォォォ!!!」 イルカが助ける前に、決めワザの名前とともに繰り出された蹴りが男を吹き飛ばして行った。突然の登場に驚くサイの前に立ちふさがるよう現れたのは。 「ガイ…先生?」 「無事だったか!イルカ!サイ!!」 「え…っとはい」 ほぼ初対面の相手に呼び捨てにされ、戸惑いながら答えたサイにガイはうむ!と勢いよく頷いた。 「さて!話は後だ!まずはこいつをやつけねばな!」 ガイが手を構えた瞬間、吹き飛ばされた男の体から帯電のような光が飛び散った。 あれは…? 「ぐぉぉぉぉぉ!!!」 男の叫び声とともに、その光は大きくなり、弾けたと思った瞬間静寂が訪れる。 すっと一瞬で消えてしまった気配に目を開けると、そこに男の姿はなかった。イルカはサイやガイの無事を確認しほっとしたが、どうやって男が消えたのかはわからなかった。 「くっ!また逃げられたかっ!!」 悔しげに男の居た場所を睨むガイ。しかしすぐ彼はイルカとサイを心配して振り返った。 「怪我はないか!イルカ!」 「はい。俺は…あ、サイ!その人はっ!?」 膝をつき、首に手を当てたサイは首を振った。 間に合わないのはわかっていたが… 「むむ!その忍は…川の里ではないか!くっ!あやつめっ!」 「川の里?ガイ先生ご存じだったんですか?」 「うむ…実は迎えに来たんだが。一足遅かったか…」 ガイは腕を組み、小さく唸る。 「すまんが付き合ってくれるか?二人とも!」 ガイに連れてこられたのは、街の中心部にある宿屋だった。真夜中のためか、迎えるものが誰もいない玄関を通り、二階に上がっていくとイルカは先ほど別れたばかりのアスマの気配を感じ取った。 「…おい?」 それは中にいた彼も同じだったようで、アスマが驚いたように顔を出した。 「間に合わなかった」 しかしガイがそう一言言うと、アスマはわかったと頷き、イルカたちを部屋へと招き入れた。 「悪いな…先生達。どうやら手伝ってもらうことになりそうだ」 すまなそうにアスマは頭を掻いた。 驚いたことにその部屋には紅の姿まであり、彼女もイルカ達を見て目を丸くしていた。だが、彼女がそれ以上何も言わなかったのは、部屋の奥で項垂れている男達がいたからだろう。 「簡単に話す。今俺達は川の里から受けた協力要請によりここにいる。任務内容は里を抜けた男の始末」 「抜け忍ですか?」 「いや、忍じゃねぇ。だがそれが少々やっかいでな」 アスマはふぅっと大きく息を吸い込んで厳しい目つきでイルカ達を見返した。 「術を自分にかけて抜けた。そのせいで忍以上の力を持つ嵌めになった」 それが先ほど襲った男なのだと、イルカとサイはすぐに察しをつけた。 もとは他里の術を分析する解読者。しかし、ある日持ち込まれた術に魅入られ、己にかけた挙げ句に、止めようとした同僚達を殺し逃亡したらしい。 里の醜聞の事件。それをさらけ出してまで同盟里である木の葉に助けを求めたのは、これ以上自分達の手には負えないからだろう。 もともと、忍より、それに準ずる技術で生計を立てている方が多い里である。己に術をかけ、人間の何倍もの力を手に入れてしまった男をどうすることもできなかったのだろう。 「その術とはどんなものなんですか?」 「それがなぁ…悪いことによくわかってないんだよ」 「は?」 そんな筈はと部屋にいた紅へ視線を移したが、イルカに返ってきたのは肯定の頷きだった。 「そいつはね、解読できず、封印されようとしていた術を己にかけたのよ。だからそれによってそいつがどんな力を手に入れたのかはわからないの。わかっているのは…運動機能がすべて上がったことと、体から放電のようなものを出すぐらいかしら」 そんな無謀なと呟いたイルカに更なる追い打ちを駆けるようにアスマが言った。 「そしてそいつはもう一つ、未解読により封印された術を狙っている。それが…この街にある」 「この街って…この街に封印したんですか!?何故!!」 「ここで見つけたからです」 イルカの声に初めて無言だった川の里の忍が答えた。 「奪われた術も、もう片方もこの街で見つかった。扉の奥の石版に守られて。優秀な解読者だった男は、里の役に立つと封印することに反対していたが、その術の危険性は思っていた以上。手を出すべきものではないと、封印が決定された時、あいつは…片方の術を己にかけ、止めようとした同胞を殺し逃げた」 お前達が要らないと言うのなら、この二つは俺のものだと。そう言い残して。 男は必ずやってくる。この街へ、もう一つの術を求めて。 ……ようやく見つけた…… 死んだように眠り続けていた男は、光も通さない藪の中で目を覚ました。カサリと草が揺れ、男は油断なく辺りを伺う。 俺の…モノだ… ずっと捜していた片割れ。かつて仲間だった愚か者達は、あの術の価値に気付かず、再び石版の中で眠りにつかせようとしていた。あれがどんなに素晴らしく、絶大な力を持っているかを知らないで。何という、馬鹿な奴ら。仲間であったことせえ、恥ずかしい。 自分が狙っていることを恐れ、術の場所を特定されないようにしていたようだが、ようやく突き止めた。発見された所とは盲点だったが。 しかし、なんたることか。そこにあの時の忍らがいるとは。 愚かなマネをし続けたその代償をその身に教えてやって居たときに、現れ邪魔をした奴ら。 そいつらはすぐに引き裂けなかった、殴れなかった、死ななかった。 油断のならない奴らだ。 男は己に焦るなと言い聞かせ、その方角を見る。 もうすぐだ。 それは自分のものになる。 街の中央にある時計柱。真っ直ぐに伸びたその上に白い光が瞬いている。だがその気配は気薄で傍を通ってもわからないぐらい、静かにひっそりとこの場に存在していた。 「カカシ先生」 「あれ…イルカ先生?どうしたんですか?」 とっくに気付いていた癖に、そんな気配は微塵もさせずに問いかえしてくるカカシは驚いたように目を丸くしていた。 音もなく飛び降り、イルカの傍に寄ってきたカカシは不思議そうに首を傾げる。 こういう無防備そうな所はすごい上忍とは思えないんだけれどな。 だが、戦闘になれば彼の様子は一変するのだろう。本当に強い人はその力をひけらかさない。そして驕ることもない。 「イルカ先生?」 今度は本当に不思議そうにカカシが問いかけた。すみませんと軽く首を振って笑えば、カカシは首を傾げたまま、はぁと呟く。 「実はカカシ先生方の任務をサポートさせて頂くことになりました。私は交代で来ました」 「え?サポート?一体どういうこと?」 ここにずっといたカカシは困惑したように頭を掻く。イルカが簡単に説明すると、そうなんですかとすぐ納得したようだ。 「…カカシ先生がここにいらっしゃったということは…」 「ええ。この下にその術の入り口があるんですよ」 何十年も前から立っていた時計柱。こんなところに忍の術が隠されていたなど誰も思わないだろう。 「系統もわからないとか。やっかいですね」 「そうなんですよね〜解読しようとしたなら、少しぐらいは情報を引き出して欲しいもんですよ」 そして手を余すなら始めから手を出すな。 確かに技術は持っているかもしれないが、忍だけで生きている里には敵わない。見知らぬ術が生死を分ける中で生きている忍達。それは里の存続にも繋がるからこそ、必死に解読するのだ。そんな里をさしおいて片手間にやろうと思う方が可笑しい。挙げ句の果てに、木の葉に泣きつくとは。 「馬鹿ですよね〜」 カカシは笑っているが、その言葉は容赦がない。それには、イルカも同じ意見だった。 「しかし…その男が街に入ってくることの方が心配です。関係ない人が犠牲になったら…」 「だから俺達が来ているんですよ。しかし…参ったな。その川の里の忍。殺されたんですか?う〜ん…」 「何か重要な情報でも持ってくることになっていたんですか?」 「いえ、術を封印した扉を解いて貰う筈だったんですよ。 普通の封印なら俺達でも何とかなるでしょうが〜何でもひねりを加えたオリジナルって言うもので」 それを解ける筈の忍が殺されたとなると、また新たに派遣される忍を待たねばらなないが…しかし、時間が経てば立つほど、その男の動きがどうでるかわからなくなる。男もそれを見越して、忍を手に掛けたのか。 「…その封印見てもよろしいですか?」 「ん?構わないと思いますよ〜俺も見ましたから」 これがあるからねと、額当てをコツンと叩くカカシ。だが、それを使ってもその封印は解けなかったのだろう。 「ついでにサイもいいですか?」 「……何で俺がついでなんだよ」 ぶすりとした顔で現れたサイは、悪いなと微塵も思っていない顔で謝るイルカに溜息をつく。 ど〜せ、最初から人を当てにするつもりだった癖に。 サイはカカシの横でにっこりと笑っているイルカを睨み付けたが、そんなものが効いた試しはないことは承知しているが。 「……機嫌良さそうだなぁ …イルカ」 「まぁお前に比べたらな」 「ふ〜ん…ま、そうだろうな。はたけ上忍と一緒の任務だし?」 「…はい?」 「は?何を言ってるんだ…サイ?」 自分を見返してくる二人にサイはにやりと笑い。それじゃあ、見てきますか〜と隠し階段を見つけて中に入り込もうとする。 「おい!サイ!!」 「あ〜?何だよイルカ。俺はさっさと猿飛上忍のところに戻らないといけないんだ。行くぞ〜」 「って…お前…!変な含みを持たせたまま行くなっ!」 焦るイルカと、意味深な言葉を残して消えたサイ。取り残されたカカシは困ったようにその場に立ちつくす。 「えっと、取りあえずイルカ先生も見てきて下さい。俺は見張ってますから」 「は…はいっ!それではっ!」 とっくの昔に消えたサイを追って行くイルカ。彼らの姿が消えた頃、カカシは一人で呟いた。 「どういう意味なのかなぁ?」 「サイ!!変なこと言い出すな!」 階段を降りたところは行き止まり。その壁の前でサイが膝をついていた。 「あ〜?嘘は言ってないだろ。お前、はたけ上忍を尊敬してるって言っていたじゃないか」 「そうだけど!お前の言い方は…」 「ならいいじゃねぇか。それよりも、う・る・さ・い」 これまで散々な目に合わされていたサイは、イルカをやりこめたことに満足げに笑った。 む…むかつく。 くるりと背を向けたサイを睨みつつ、彼の邪魔をしないように後ろに佇むイルカ。自分も見てくるとは言ったが、術関係のものはサイの方が何倍も詳しい。彼の家にある山積みの巻物は時折火影も貸し出しを請うぐらいなのだ。 「…げ…なんだよこれ…すげ面どくせぇ…」 「わかったのか?」 「…系統はな。んなに難しい術じゃない。けど肯定がなぁ…この印は「臨」だし…こっちは「兵」の術式かよ…んでこんなぐちゃぐちゃと!!面どくせぇ上に全然綺麗じゃねぇっ!!これを作った奴のセンスを疑うぜ!!」 「…」 「ああっ!何でこの術式をここに書いてるんだよっ!こっちにすれば、この部分は省けるじゃないかっ!!それでこれをこっちにすれば…もっと効力が上がるだろうっ!!!うわぁ!すっげぇむかつく!!!」 文句を言いながらも次々と動くサイの手は封印を解除していく。壁に触れるたびに、その場所が光り、サイのチャクラが壁に吸い込まれていく。 そして5分もしないうちに、サイは鼻を鳴らした。 「っとこれで完了!!」 最後の印を結び、壁を叩く!すると、サイ曰く無駄がありすぎる上にちっともセンスがない術式が浮かび上がり、壁は扉と変わって封印していた部屋の奥の道を開いた。 「相変わらず…さすがだな」 「褒め言葉にもなってないぞ。イルカ」 当然と胸を張っているサイだが、照れくさい気持ちはあるらしい。イルカの方を見ず背を向けた。 「はたけ上忍を呼んで、そのまま猿飛上忍のとこに行くわ。封印はこれ一つらしいから、後は大丈夫だろ」 「わかった」 サイはひらりと手を振って、階段を上がっていく。イルカは目の前にある暗い道を見据えた。先は深いのか、ここからでは何があるのか伺い知ることはできない。 「うぁ…本当に開いてますねぇ…驚きました」 「カカシ先生」 階段を下りてくるカカシが、開いた扉を見て目を丸くしている。先ほどのやり取りを思い出し、一瞬顔を引きつらせたイルカだったが、カカシの目は扉に釘付けだった。 一人で緊張していたイルカが肩の力を抜いた瞬間、カカシが再びイルカを固ませる発言をぶつける。 「さ〜すか、イルカ先生。この扉を簡単に開けるなんて…すごいですねぇ」 「……」 サイの野郎っ!!!人に面倒を押しつけやがったな!! 自分が開けたと言えば、アスマ達に何を言われるかわからないと思ったのだろう。「黒の部隊」の任務以外は滅多に里から出ないサイが、彼らのせいで任務に駆り出されてしまう。これ以上はゴメンだということなのだろうが…だからと言ってイルカの手柄にするとは! 「…ほ…火影様から時々巻物の手伝いを頼まれていて…その時に似たものが…」 「へ〜そうなんですか」 苦しい言い訳を、にこにこと聞いているカカシ。こんな言い訳でカカシを騙せるのか、イルカは不安だったが、取りあえず今は考えないでおこうと思った。 「サイがアスマ先生達を呼びに行きましたが…待っていますか?」 「ん〜先に行きましょ。早く見てみたいですし。あ、入り口には忍犬を置いてありますから大丈夫」 するりとカカシがイルカの横を抜けて歩き出す。イルカはそれを追っていった。 (2004.7.27) |