忍び寄るモノ


T  U  V  


T

月日が巡るは何と早いことか。
何度見たかわからない昼と夜。
そして見飽きることのない、血と戦場の気配。
どれだけこの腕を振るい、敵を倒し命を奪ったのか。
どんどんと蝕まれる精神をつなぎ止めていたのは、一人の子供の笑顔。
帰るんだ。必ずあの子のもとに。

それだけが今の自分を支えているモノ。



ふうっと面の下で息を吐き、ようやく終わった戦場を眺める。
今回の任務は、山賊退治。
仲間によほど頭のいい奴がいるのか、全く手がかりを残さない連中でそれを掴むのに骨が折れた。少しでも危険を感じれば、すぐさま引くという手際の良さ。しかも毎回違う方法で襲っていたため、同じ連中だとわかるのに時間もかかった。だが、ようやくそれを突き止めたと思ったら、奴らが根城にしている場所は、つねに霧が立ちこめ、一定の道から外れれば、どう危険が襲ってくるかわからない天然の要塞のような場所。
その進入の難しさから「黒の部隊」へと依頼が回り、レツヤをリーダーとする、サヤカ、サイ、そしてイルカの一部隊が派遣されたのだった。

「終わったな」
「ああ…」

こちらに向かってくるサイに頷き返し、二人は屍が広がる足下を見回す。イルカ達が思っていたより人数も多く、地の理などもあって、かなり苦戦した。だが、頭領と思われる人物は仕留めたし山賊達も壊滅させたので、任務は完了したと言っていいだろう。

「二人は?」
「奥に行ってる…ったくまだ元気有り余っている感じだぜ、あの2人は」

普段から、くだらない冗談を言ったり、サイやイルカをからかうことが多いので、敬遠されがちなレツヤだが、彼の腕はいつも面倒を見てくれるサヤカより上だろう。当初、サヤカではなくレツヤが隊を率いると聞いて驚いたが、サヤカが当然だという顔をしてるので反論はしなかった。しなかったが、不思議に思っていた。
彼女の実力は訓練で嫌というほど知っていたし、逆にサポートとして付いていたレツヤは二人の具合を見るのに留まっていた。だから、無意識にサヤカの方が強いと思っていたのかもしれない。

彼が戦う姿を見た時、驚いた。
いつもの彼から感じられないほど、力強いチャクラを発し、ねじ伏せるような戦い方は他の忍にはできないだろう。力任せな乱暴さと頼りになる力強さ。それでいて得意なのが術だというのだから、人は見た目ではわからないものである。
そんな互いに反する印象を、同時に与えてくる忍など見たことがなかった。
自分のスリーマンセルの時の上忍を思い出したが、そんな比ではないと、改めて「黒の部隊」に身を置く彼の強さを感じ取った。

そして、サヤカは以外と頭脳派だったことも始めて知った。
訓練の相手はいつも彼女がしてくれた。無論、体術もその一部。
女性にしては繰り出される攻撃に重さがあると思っていたが、それは腕の力ではなくチャクラを練り込んでいたからだと言う。相手の体に触れた瞬間に、タイミング良くチャクラを加えることによって、ダメージを倍増させる。男に比べれば、どうしても力が劣るサヤカは、そうすることによって、男に引けを取らない力を手に入れた。しかし、口で説明するのは簡単だが、その絶妙なタイミングを計るのは困難を極める。自分の動きと相手の動きを計算し、一秒にも満たない時間にそれをたたき込むのだから。
それを知ってから、尚更「黒の部隊」の忍の実力を痛感したイルカとサイだった。

「お〜い、二人とも、ちょっと来てくれ」

レツヤの声に、なんだよとぶつくさ言いながら、サイがそちらに向かう。
二人が彼らのもとへ近づくと、レツヤとサヤカは顔を見合わせ、何かを考え込んでいるようだ。

「どうしたんですか?何か問題でも…」
「ん、いや、任務は完了なんだけどなぁ。気になるもん見つけてしまって」
「気になるものですか?」
「どうやら、こいつらの上がいるようなのよね」
「上?どいうことですか?」

サイがサヤカに問いかけると、彼女は手に持っていた紙の一枚をサイに渡した。
サイとイルカがそれを読むと、それは戦術のようなもの…つまり、ここの山賊達が人を襲う方法を記したものだったのだ。

「なんですか?これ…」
「どうやら、襲撃をする方法を教えていた奴がいたようだなぁ。ここの頭はそれを忠実に守っていたんだろう。ほら、『危険を感じた時はすぐ引くべし、そこで欲目を出せばそこから追いつかれる。逃げる時は最低3本の退路は用意しておくこと…』ったくよけいな知恵回したのどんな奴だよ…」
「そうですね…かなり頭の良い奴がいたようですけど。でもそれが?こいつらみんな外で寝てるでしょう?」
「それがね、これ買っていたようなのよね」
「買って?ということはまさか…」
「ここの頭、どいうわけか日記見たいなものつけていたようなのよ。ここを読んで…ほら、毎月大量のお金を払っているでしょう?そして…」

『毎月、奴に払う金には頭が痛い。だが、そうしなければ策をよこさないから嫌な奴だ。だが、あいつの考えた策のおかげで俺達は一度も捕まらない。奴を仲間に引き入れれば簡単だが、むかつくことにそれになびく様子はない』

「…うぇって感じなんですけど」
「まーな、でも、俺達の任務はここの山賊を消すことだからな。それは無事終えたから任務は完了したと言っていいだろうさ」
「…すっきりはしませんがね」
「…まぁな」

イルカに苦笑いを返し、レツヤはサイとイルカに山賊達の死体を始末するよう言った。二人が向かった後、レツヤはため息をつく。

「妙なことにならなけりゃいいがな」
「同感。この『奴』って人物が気になるけど…少し資料を持ち帰った方がいいかもね」
「だな」

二人は頷き会って、他に何かないか物色し始めた。



イルカとサイが「黒の部隊」の任務につくようになって三ヶ月。いや、訓練期間を含めれば九ヶ月。全く早いものだと、イルカはベットに潜り込んだ。
【黒の部隊】の忍は、その行動範囲の広さから、いくつか里が用意している仮家を使う。とは言っても、そこに居続けるのは一週間もいないだろう。里に戻るよりも任務が与えられる方が早い彼らのために、上質の寝心地のいいベットを用意してくれるのはありがたいとイルカは思う。

ナルトどうしているかな…
眠りに入ろうと、ナルトの顔を思い浮かべた瞬間、イルカははっと目を開けた。

「起きてるか?イルカ」
「サガラさん?」

イルカがあわてて戸を開けると、そこには一度顔を合わせたっきり、久しぶりの体面となるサガラが立っていた。彼は静かに微笑みながら、言葉を続けた。

「休んでいる所悪いが、ちょっと来てくれるか」

はいと返事を返せば、外にサイの姿も見つけた。
サガラは二人を連れ、奥の部屋へと向かう。

「あれ…レツヤさん、サヤカさん」

まだ暗部の仕事着も脱いでいない状態で、二人は椅子に向かい合って座っていた。自分たちが戻ってからかなり時間が経っている。ということは、自分たちが休んだ後も彼らは仕事をしていたということだ。同じ任務をしていたというのに…何だか甘やかされているようでイルカは嫌だった。
それをサイもわかったのだろう、不機嫌そうに眉を寄せている。

「レツヤさん、サヤカさん…」
「イルカ、サイ。やっぱ面倒なことになりそうだぞぉ」
「何がだよ」
「『奴』の話だよ」

優しくサガラがサイに答え、レツヤの前にあった一枚の紙をイルカ達に渡した。

「こちらも別の任務についていた時にね、似たようなことがあって他の部隊とも連絡を取ってみたんだ。するとこの『奴』相当手広く関わっているらしくてね…」
「手広くですか?」
「ああ、山賊から大名、商人の裏にちらちらと現れる影。自分の姿を全く見せずに動いている。これが一人なのか、組織なのかわかっていない」

どんなに調べても、見えてくるのは顔の見えない影のみ。「黒の部隊」の忍が調べてもそうなのだから、狡猾な奴らとしか言いようがない。レツヤは腕を組んでいるサガラに問い掛けた。

「次に出てくるのを待つしかないか…それで?【シキ】様は何と?」
「同じく様子見だな。だがそのまま放って置くこともできないだろう。火影様と相談した結果、暗部に探らせることに決めたようだ」
「そうね。悪いけど私達にそんな余裕はないから…」

三人がこくりと頷き会った時、イルカはふと、疑問に思ったことを聞く。


「【シキ】様って誰ですか?」


………


何故か、レツヤ、サヤカ、サガラの顔が固まった。そして、最初に我に返ったサガラが、ギギギと音を鳴らすように首を動かし、レツヤとサヤカの方を見る。

「…お前達…まさか教えてなかったのか?」
「え…お…俺はてっきり、サヤカが言っているものだとばかり…」
「な…何言っているのよ!!!いつもおしゃべりな貴方の方が…」

「…教えてないんだな」

冷たい、怒りが含まれた声に、今にも喧嘩を始めそうだった二人はぴたりと止まる。だらだらと見るからに顔を青くして、はいと小さく頷いた。

「「???」」

それを眺めるイルカとサイは首を傾げるばかり。ただ、にこやかな笑顔を見せているサガラは妙に怖かった。


「お前達…【黒の部隊】の隊長を教えていないでどうするんだ!!!!!」


それは怒りよりもあきれの方が勝っていただろう…


暗部の精鋭「黒の部隊」を率いるのは【シキ】と呼ばれる隊長だ。【シキ】というのは、名前ではなく隊長に付けられる呼称で、本名を知っているのは火影や【黒の五色】の一部だけだと言われている。

「すいません、【黒の五色】って何ですか?」

行儀良く手を挙げて質問したサイに、サガラはため息をついた。それを聞いて、再びびくりと体を震わせるレツヤとサヤカ。気の毒そうなほど顔が青ざめており、イルカは大丈夫か?この人達…と小さく呟いた。

「【黒の五色】というのは、【シキ】様をサポートする部隊長の方々。この方々は五色と呼ばれているように【シキ】様を除き4人いて、【シキ】様は黒、そして部隊長は青、黄、赤、白の色にちなんだ名で呼ばれている。これが【黒の五色】だ。ちなみに我々もそうだが、イルカとサイは【黄】の【ウコン】様の部隊に配属されている」
「そうだったんですか…でもその方にも会ったことないよな?」
「うん」

互いに顔を見合わせるイルカとサイに苦笑しながら、サガラはすまなそうに言った。

「今、【ウコン】様は長期の任務に就いておられるんだ。当分帰ってはこないだろう…不満もあるだろうが顔合わせはもう少し待ってくれ」
「いえ、それはかまいません!な?イルカ?」
「はい。俺達もまだ未熟ですし…【ウコン】様とお会いできる時は「黒の部隊」に相応しい忍の一人となっていたいです」

イルカの言葉に嬉しそうにサガラは微笑んだ。後ろであからさまにほっとした顔のサガラとサヤカだが、くるりと振り返ったサガラの顔を見て何故か固まっていた。

(ど…どんな顔を見たんだろう…)
(知らない方がいいんだ…うん、そうだ)

サイとイルカは小声で言葉を交わしあい、こっくりと頷きあった。


それから何日かたって。イルカとサイはセキシとサヤカと組みながら、日々任務をこなしていた。数日前の山賊達のことが気にならないと言えば嘘になるが、それよりも目の前の任務を無事終えることで精一杯だった。それでも始めの頃と違って、「黒の部隊」らしい風格も備えてきた二人に、ある日火影から呼び出しがかかった。

(2003.11.9)



U

「久しぶりだな。イルカ、サイ」

火影が顔に皺を増やしながら、二人に微笑みかける。その笑顔を見て、二人も何だか安堵する気持ちが沸き立ち、自然と笑みを返していた。

「お前達の働きは聞いている。ずいぶんとらしくなって来たようだな?」
「そんな…まだ…」
「自分ではわからないだろうがな?お前達の働きを直に見ていない、わしにもお前達の上達ぶりが感じられるぞ。言って置くが、世辞ではないからな?」

心からの誉め言葉に、イルカとサイは嬉しさを隠せなかった。しばらく当たり障りのない会話が続いたが、さてと火影は言い机の上で手を組んだ。

「二人を呼んだのは他でもない、もうじき中忍試験が始まる。それを受けに一時期里に戻ってこい」
「中忍試験ですか…?」
「うむ、お前達ももう16になる。そろそろ中忍になっても可笑しくないだろう?」
「しかし火影様。そうすると、「黒の部隊」の任務が…」
「そうじゃな、少し休まねばならんだろう。が、休息にちょうど良いのではないか?」

確かに。
ろくに休む暇もなく任務に明け暮れる「黒の部隊」の仕事。疲れが溜まっていないと言えば嘘になる。だが、部隊の仕事にも慣れてきたし、それに早く仲間達に追いつきたい。まだ足を引っ張っているのを自覚している二人は、火影の言葉にすぐ返事を返せなかった。しかし、そんな二人の胸の内は火影も知っていたのだろう。不意ににやりと笑う。

「…実はな。今回の中忍試験に、気になることがあってな」
「気になることですか…?」
「そう、妙な噂も届いて来た…この中忍試験に横やりが入ってくるかもしれぬと」
「横やり…?」
「何者かが、これを気に木の葉に手を出してくるということですか?」
「うむ」

サイの言葉に火影が頷く。

「その正体とともに、無駄な犠牲者を出さぬためにも、お前達も参加して欲しいのだ。それ以外のことには手を貸さなくとも良い」
「はい」

無論、こちらも手は打っておくと、言った火影に頷き返したが、ふとイルカは一つの疑問点を口にした。

「でも火影様。試験はスリーマンセルですよね?俺達は…一人足りないと思いますが」
「ああ、知っておる。後で会わせよう」
「会わせるって、そいつ大丈夫ですか?いくら実力を隠して試験に臨むとは言え、ただの下忍なら、いざって時に邪魔になるだけ…」

「そんな心配は結構よ」

突然降ってきた声に、イルカとサイはすっと戦闘態勢を取った。そんな二人を見て、くすくすと笑う声…

「降りてこんか。ツバキ」
「はい、火影様」

音もなく、ふいっと現れた小柄な人物。イルカとサイよりも背が低く、声からして二人と同じくらいか年下の少女と思われる。暗部服を着た彼女が顔をあげ、そこにつけられた面を見せた。

黒い面…この子も「黒の部隊」か…!
表情は変えないが、内心驚いているイルカとサイ。それを知っているように、少女は面の下でくすくすと笑う。

「この者の名はツバキ。今回お前達と一緒に中忍試験を受ける」
「よろしくね?」
「…挨拶する時ぐらい顔見せたらどうだ…?」

不機嫌そうなサイに、あらとこぼし彼女は面を取る。

「これでご満足?」

下から現れたのは、予想通りまだあどけない顔をした少女だった。肩でまっすぐ切りそろえられた黒髪に、相手を逆撫でするのが得意そうな、大きな黒い目。
ツバキはにっこりと笑いながら、イルカとサイを観察した。

「一応あなた達の後に入ったから先輩と呼んだ方がいい?」
「…いや」
「そう?じゃあイルカ、サイって呼ばせてもらうわ」

確認はしたものの、始めから呼ぶ気などなかっただろう。満足そうに笑う彼女に、サイは眉を寄せた。

「後って言うことは、あれから何度か試験を…?」
「いや、一回だけだ。その時の合格者はツバキだけだった。お前達は会うのは始めてじゃな?「黒の部隊」の任務についたのもお前達と同じくらいだが、ついていた奴が違うから顔を合わせる機会がなかった」
「そうなんですか…」
「あなた達は【黄】の部隊でしょ?私は【白】の部隊だから」
「そうか…まぁとにかくよろしく」

手を差し出したイルカに目を丸くしたツバキだが、彼女はくすりと笑いその手を握った。

「ほら、サイも」
「げ!?何で俺も…」
「げじゃないだろ!すぐそうやってめんどくさがる…あ、違うか。照れてるのか」
「ばっ…言うこと書いて何勝手なこと言ってやがるっ!!!こんな奴相手に誰が照れるかっ!!!」
「こ…!?こんな奴って何よっ!!!!レディに対して失礼ねっ!!!」
「誰がレディだ!誰がっ!!!」
「ああもう…」

ぎゃあぎゃあと喧嘩し出す二人を見て、イルカが額を押さえる。この調子で中忍試験を受けるのかと思うと頭痛がしてきた。

「では、がんばれよ。イルカ」

そんなイルカに、ありがたい火影の言葉がかけられた…



ぴかっと輝く太陽。ぽかぽか暖かいなぁと少し現実逃避をしているイルカ。

「…なのに、何で俺はこんなに暗いんだろう…」

それは…

「あーーるせぇんだよっ!!!お前はっ!!!」
「はぁっ!?何言ってるのよっ!うるさいのはアンタでしょうがっ!」
「んだとっ!!!」

子供のように喧嘩をする二人に周りからはあきれた視線。彼らとスリーマンセルを組んでいるなどイルカは恥ずかしくて、顔が上げられない。

「…大丈夫か?イルカ?」
「ああ…うんと言いたいんだけど」

ぽんと同情するように肩を叩いてきたのは、かつてのスリーマンセルの仲間。彼らもイルカの抜けた穴を補充し、今回の試験に参加していたのだ。

「もう…いい加減にしてよ」
「大体なぁお前がっ!!!」
「人のせいにするんじゃないわよ!この根性なしっ!!!」
「んだとこの女っ!!!」

イルカの声は二人の怒号によってかき消される。イルカはため息をついて、伸ばした手を下ろした。

「もう二次試験だぞ?大丈夫なのか?お前のチーム…」
「さぁね…」

イルカは疲れたようにまたため息をついた。


「いい加減にしてよ。二人とも」

二次試験、死の森。薄暗い森の木を背にし、イルカは不機嫌そうに二人を眺めた。

「だってよ…」
「何よアンタが…」
「黙って!」

ぎっとイルカに睨み付けられて、サイとツバキは押し黙る。普段から、声を荒げないイルカにしては乱暴な言葉。だが、それも仕方ないだろう。スリーマンセルを組んでから、ここに来るまで、ずっと二人の喧嘩に挟まれていたのだ。
何度チャクラをぶつけて、打ちのめしてやりたいと思ったか。
イルカの本気の怒りを感じ取り、二人は首を竦める。それを見ながら、イルカは大きく息を吸って、自分の苛立ちをおさめようと必死だった。

「で?もちろん喧嘩ばかりした訳じゃないよね?」
「ああ。それは当然だろ。いまんとこ怪しい奴は見あたらなかったけどな」

サイが辺りを見回しながら、呟く。

一次試験を終え、残ったのは、全部で15チームだった。その中、10チームが木の葉の里の忍だ。

「感想は?」
「気持ち悪い雰因気を出してる奴らいるわね…目がぎらぎらして殺気だって」
「早々に潰せばいいだろ。そしたら問題ないし」
「サイ、これは中忍試験だ。いくだ妙な奴らだからと言って、そんなことはできないだろう」
「でも、巻物を奪うには一チーム潰さなきゃいけないのよ?それをあいつらにしても誰も文句は言わないわよ?イルカ」

にっこりと笑うツバキにイルカは肩を竦める。

「だな、火影様もそれをしちゃいけないなんて言わなかったし」

にやりと笑うサイを見て、どうしてこんな時だけ気が合うのか不思議だとイルカは思った。
ふわぁと眠たそうに欠伸をしたサイは、で?と聞き返す。

「さっさと巻物を手にいれましょ。その後は散会して様子を見た方がいいわ」
「だね」

イルカも頷いたことで、三人は早速ライバルの忍を探しに木に飛び上がった。

(2003.11.10)



V

目を瞑り、身を森と一体化させれば、生き物のざわめきが頭に飛び込んでくる。その中には鋼の打ち合う音や、チャクラの膨らみなどもあり、ツバキはその異質を感じ取った後目を開けた。

「いた?」
「ええ。向こうに1qぐらいね」
「んじゃ、行くか」

並はずれている聴覚を持つツバキは、先頭に立ち走り出す。それを追うイルカとサイの耳にも戦闘の気配が聞こえてきた。

「何チーム残るかなぁ」

試験を受けている下忍達よりも、遙かに実力の差があるサイは呑気にそう呟く。これからは、実力があることを知られぬように動くため、気を抜くならば今のうちだとばかりに、だらけるサイ。そんな彼にイルカはため息を洩らし、前方を走るツバキからは叱咤される始末。だが、ふんと鼻を鳴らしたサイは、ツバキが止まったと同時にその身を木の葉の影に隠す。

「あれ…ね」
「だな」
「だね」

彼らの下にいるターゲットに、ツバキは不適な笑みを見せる。

「さっさと終わらせて、仕事しないとね。あ、私一人でいいわよ〜」

こちらが答える前に姿を消したツバキに、イルカとサイはあきれ顔。

「いいんじゃないの?」
「言うと思った」

動く気のないサイに、イルカはため息をつく。もちろん、心配などはしてないが、だからと言って彼女一人に任かせておくわけにもいかないだろう。イルカもすっと姿を消した。

「ほっときゃいいのにさ。どうせ大丈夫なんだから」

腕を組み、幹によしかかる。2対3。わざとスピードを落とし、実力を下げながら戦う二人によくやるねと、ふわっと欠伸をしながらサイは戦いぶりを見ていた。


「ご苦労さん〜」
「何がご苦労さんよ、呑気に見物してたくせに」
「あれ?誰かさん自分ひとりでいいって言ってなかったぁ?」

ああまた始まったよ…
もう何も言う気も起きずに、イルカはげんなりとしながら2人から少し離れた場所へと腰を降ろす。イルカの手には先ほど奪った巻物。これで、この試験は無事クリアできるだろう。

さっさと終わらせて帰りたいなぁ…

まだ喧嘩をし続ける2人を見て、イルカがはぁっとため息をついた瞬間。

びぃん。

立ち上がったイルカの隣に、サイとツバキが降り立ち、同じように耳を澄ましていた。

「…聞こえた?」
「聞こえた」
「何よ今の」

すっと動き出したイルカへ二人は続く。木々の合間を抜け、他の気配に注意しながら、それでも頭には先ほどのことが離れなくて。
あれは、何かが破られた音。

「ちょっと」

最初にツバキが、死の森にある中央塔へと向う気配に気づいた。試験が始まって3時間。実力があるチームなら、たったそれだけの時間でこの試験を突破するところもあるだろう。しかし、このスピードは。

「…早い」

イルカ達が走る速度と変わらない足の速さ。しかも、迷うことなく塔へ向っている。これをどう考えれば良いのか。

「塔の近くには幻術のトラップがあるって聞いてたけどな」

サイがすっと片手を上げると、それがバチンと何かを弾いた。ここに仕掛けられた幻術を解除した音だろう。これぐらいのレベルでは、印を組む必要もない。だが、中忍試験を受けようとする下忍たちにとっては、やっかいな代物。その術を自分達以外の者が次々と突破していく。

「サイ、火影様に式を飛ばしてくれないか」
「わかった」

サイが片手を動かすと、そこに白い鳥が1羽現れた。サイの手から飛びだった鳥は、最大の障害物の森を翼で飛び越え、塔に待機している火影の下へと向っていく。

「例のことに関係してると思う?」
「少なくとも、俺達が受験者を見た時、ここまでの実力がある奴らには見えなかったね」
「木の葉の受験者の実力は把握してるだろう?警戒すべきは他里の忍だけど、一つはさっき潰したからな」
「でもね、私たちが気にするような奴らじゃなかったわよ、本当に」

新米とはいえ現役の「黒の部隊」に属する3人の眼をかいくぐったとはどうしても考えにくい。

「…ともかく、俺達は塔に急ごう。最悪にも、火影様の傍には暗部の護衛がいるだろう。そうやすやすと何かが起きるとは思えないけど…」

イルカの言葉に2人はそうであって欲しいと頷く。だが、彼らの予想を覆して、敵の力は大きくそして未知に溢れていた。


「飛べっ!!!」

先頭を走っていたイルカの合図に、3人は別々の方向へと飛び散った。

ドォン!!

その場所へ火だまりのようなものが落ち、メラメラと地面を焼き焦がす。

火遁の術!?でもっ…

一体どこからだと、それぞれの場所で攻撃してきたものを探す3人の目。しかし、どんなに探してもその姿は見えなかった。

「イルカ」

すっと後ろに現れたサイは、くいっと顎を引き向こうを見るように促す。それをたどればそこに暗部の倒れている姿があった。

「イルカ、お前は火影様のもとへ行け。ここは俺らでなんとかする。いいな、ツバキ」
「偉そうに。ま、それに依存はないわ。何か変すぎよこの状況。敵がいるはずなのに、殺気も姿もないなんて」

気に入らないと、ツバキは辺りの気配のにおいを嗅ぐ。しかし、引っかかるものは何もなかった。

「ただ…妙な感じがする。強いて言えば術のような。俺達全員が幻術にかかっているとも思えないけど、注意しろよ」
「わかった」
「あ、あと顔隠してよ。火影様の所には護衛の連中もいるだろうし…死んでなければだけど」

了解と3人は頷き会い、一斉にその場から飛び出す。

「右っ!!!」

ツバキがクナイを振り下ろすと、先ほどと同じ火遁の塊が彼女を襲う。それを切り裂き、サイが素早く印を結ぶと、次に来た攻撃をすべてはじき飛ばした。

「行けっ!!!」

タンとイルカは飛び上がり、2人から大きく離れると一直線に塔へ向かう。入り口付近にさしかかった時、突然横から殺気を感じたのでそれを避ければ、壁にクナイが突き刺さっていた。

くそっ!!!
一体どういうことなのか。
イルカは焦りそうになる気を押さえて、何とか敵の正体を掴もうと必死になる。しかし敵の姿は一向に掴めず、攻撃してくる瞬間の僅かな殺気をどうにか避けるしかなかった。

「術…か」
不意に、先ほどサイが言った言葉を思い出す。幻術ではないと言っていたが、これが自分達の知らない幻術の一つだとしたら、どう対処すべきだろう。
幻術とは主に、相手の視界や思考を惑わすもの。
本来あるべきものを無くし、無いべきものをあるとする。それに混乱した相手に生まれた隙をついて、敵を仕留める。幻術にかかっていないのではなく、かかっているとの前提の対処の仕方は。

イルカは目を閉じて、外からの情報を一切遮断した。何も聞かず何も聞こえない、暗闇の中に立つように。イルカの意識が闇の中にいても、体は情報をつかもうと一つ一つの神経を機敏にさせて。

そこで見えた。

こちらに近づいてくる、黒い霧を。

「そこだっ!!!」

目を瞑ったまま、イルカはクナイを一閃させた。ぎゃあっと聞こえた悲鳴に目を開ければ、何もない空間から突然現れた人間の姿。すうっと手足に黒い霧のようなもが漂っていたが、忍がどさりと地面に倒れればそれは術が切れたように霧散していった。

「…これか」

イルカは死んだ忍の顔を眺めた後、塔を駆け上った。

(2003.11.11)