ありがとうございます!と叫んだ男に、憮然としながらも照れくさそうにしているアイツ。 なんつー可愛いことをするんだかと大笑いする横で、更に苦労するだろうコイツは頭を抱えていた。
「きゃあきゃあと、可愛いねぇあの頃のガキ達は」
アカデミーの屋上から校庭を眺めていたレツヤは、駆け回る子供達を笑みを浮かべながら見下ろしていた。 数日前に任務が終わり、報告がてらしばしの休息を与えられたレツヤではあったが、里に戻ってもすることは限られているので早く部下の下へ帰りたいのが本音だった。何しろレツヤの居る『黒の部隊』は暗部以上に特殊な部隊で、しかも年に数えるほどしか里に戻ることはない。里に知り合いも居ない上、自分達の身を置く雰囲気とは違う里は少々居心地が悪かった。
「そういえば…あの男も元暗部出なんだっけ」
カカシのことを思い浮かべたレツヤは、同時に昨夜のことも思い出す小さく噴出した。まさか里に帰ってきてあんな面白い場面に遭遇するなんて、何て運がいいのだろう。楽しいことが一番、それに追随するやっかいごとはサイにまかせきっているレツヤはあのできごとを楽しむことに決めていた。おまけにサイが心配している人物達が里に来る頃には自分は消えている。
「あ〜笑える」
くすくすと一人で笑っていたレツヤだったが、彼の目に三人の子供と銀髪の男が入ってきた。任務を終えた報告か、そう思いつつ視線を外すことができなかったレツヤの目は品定めをするように、いつの間にか細まっていた。
元暗部。 レツヤ達も特殊な部隊に居るが、普通の忍からすればカカシも同じことだろう。忍の任務が決して人に褒められるものばかりではないことを誰もが知っている。しかし面を被る者達の任務は必ず一歩闇の中へ足を踏み入れなければならない。血に濡れ、恨みごとを刻まれることを覚悟しなければならない。それに耐えるのは己の精神力。それは誰かへの想いだったり、里のためだったりと様々だが…それだけを支えに生きるのは辛い。
「…それを乗り切った上に、忍者の卵を育てようってんだから…すげーよな、アンタは」
己の通った道を振り返り、それを誰かに教えるのは容易ではない。その苦しさ、後悔を、悲しみを新しい者達へ引き渡すのだ。それは頭でわかっていてもそうできるものでなく…もしあの子供達が死んだ時、自責の念に駆られるのはカカシの方。
自分が彼らを死へ導いたのだと。
「…俺にはできねぇよなぁ…」
誰かを失うこと。それが大切すぎれば、苦しむのは自分。 大切で、それが生きる理由だった。いつかは来ることだとわかっていたのに、その時は永遠に来ないのだとどこかで思っていた。 できているようで、できていなかった覚悟。
また失う辛さを味合うのはごめんだ。
「…だから俺の大事な奴らは…強い奴らじゃなけりゃぁならない…」
自分より強くて、自分より先に死なない奴ら。 それが【黒の五色】。彼らの強さを信じているから…自分はあそこに居られる。
ピィ。
「…もう呼び出しかよ。こういう時に限ってだもんな〜火影様は」
指に止まった白い小鳥は苦笑するレツヤに首を傾げる。
「んじゃ、行きましょうか〜俺って働き者だよな〜」
飛び上がった小鳥を見上げ、校庭を振り返ったがあの男の姿はすでにない。ま、何とかなるさ。そんな適当な言葉を呟いて、レツヤは小鳥の後を追った。
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