最近あいつの近くに現れるようになった人。 一体何故。そう問えば、アイツはことの経緯を話してくれたが。
…それを信用するのか?お前は? 無邪気とも言える顔で、当たり前だろうと抜かす。まるでそんな疑問を抱いたこっちの方が不可解だというように。それを見て、忠告しようとする思いは消え、俺は傍観に徹することに決めた。
「こんにちはイルカ先生」 「お疲れ様です、カカシ先生」
偶然通りかかった受付所から聞こえてきた声に、思わずサイは閉め忘れた部屋の中を振り返った。そこには彼のよく知る人物と、木の葉でも有名な男が一人、互いの労をねぎらっている姿が見えた。
生徒を通して知り合ったらしいが、端から見れば長年の友人の雰囲気。それが狙いだというのだが…今一理解はできない。 少し考えれば利用されていることぐらいわかるだろうに。 あんな演技でイルカを騙すカカシも、それに騙されるイルカも。
何を考えているんだか。 呆れたため息をついて、サイは歩き出した。
バサリ。 机の上に資料の束を乗せて、サイは最近日課となってしまったため息をついた。彼の前にあるのは極秘扱いの資料ばかり。普通の忍どころか、暗部の忍でも持ち出せないものをサイは火影が何も言わないことをいいことに家に持ち帰ってきたのだ。
壁に背を預け、資料にかかっている術を解く。パチリと指先に火花が飛びちり、許可がなければ開けぬ資料はサイの前に屈する。術の腕は五色一。そう呼ばれている彼にこれしきの封印術は通じない。何しろ、火影直々からの命令を受け、木の葉の最重要場所の結界は彼の手が入っている。たかが重要書類の封印など赤子の手をひねるようなもの…しかし、だからと言って彼にこの権限が与えられているわけではない。勝手に重要書類を持ち出した上、封印を解いたとなればどんな罰を下されてもおかしくはないが、唯一例外を認められているのは、それが『黒の部隊』に関わるものである場合。
はたけカカシ。
木の葉の里が誇る上忍であり、他里へも名高い写輪眼を持つ忍。 幼いときからその才能を見出され、四代目火影の愛弟子でもあった。 6歳で中忍に合格し10代前半で上忍になった上に暗部も経験している。忍としては超をつけても良いほど、一流の忍だ。
「そんなヤツが何でイルカに目をつけるかね」
それが納得いかない上に、不可解だ。 カカシがこれまで担った任務の資料に目を通しながら、
思いつく理由を頭の中に浮かび上がらせる。だが、答えとしてしっくりくるものはなく、その考えを追い払うように首を振った。
ただイルカに興味を持ったのならば良い。
だが、それに裏があるならば、それを突き止め忠告するのがサイの…いや【ソウ】の役目だ。 サイが一番恐れているのは、カカシが『黒の部隊』を探ろうとする行為であり、イルカに疑惑がかかることだ。『黒の部隊』のことを聞き出すためか、いや…最悪、彼の正体に疑問を抱かれているとなれば、うかうかとはしてられない。
『黒の部隊』を統括する【シキ】。
部隊の中でも【黒の五色】しか知ることを許されていない最重要機密。これを守る為ならば、仲間を手にかけても良いとまで言われているのだ。
【シキ】を守るためならば、どんな手も許される。それは里を守ることにも繋がっているのだ。
最後の資料に目を通し、サイはそれを放り投げた。
「…仕方ないな…当分様子見か」
サイが望んだものは見つけられなかった。あとはカカシがどう出て、何をしようとするのか見極めるしかないだろう。そう結論づけたサイは窓を見て眉を寄せた。
「何の用だ」 「ひでぇな、使いに来たんじゃねぇか」
窓の外に居た影は、カラリとガラスをずらし家主の許可もないまま中に入ってきた。ちゃんと靴を脱いでいることを確認して、しぶしぶ彼を迎え入れたサイは、見慣れた暗部服と黒い面、そして左足に巻かれた五色の紐を見る。
「これから任務か?」 「ああ。こっち系の依頼が入ったんでね、ちょっと行ってくる。ってか、お前〜こういう扱いしてたら火影様が怒るぞ?」
床に散らばった機密書類を見て、面を外したセキシはやべぇよと呟く。だが、注意されたサイはどこ吹く風で、五月蝿そうに首をすくめただけだった。
「満足したらさっさと返せとさ。火影様の危惧がわかったぜ…ところでどうなんだ?」 「様子見だな」 「ってことは、俺達に関わった接触はなかったわけか…だとしたらそれしかないな。ま、がんばれよ」 「人事だと思いやがって」 「人事だろ〜?イルカの傍に居るのはお前だけなんだし。ま、イルカもそこんとこわかってやってるのかは疑問だけどな…アイツは思ったまま動く癖があるからな」 「今回もそうだな。はたけ上忍の演技に疑問の「ぎ」の字も思い浮かべてない。イルカなら構わないが【シキ】として考えても欲しかったけどな」 「ま〜な…自覚はしてるんだろうけど…今更だろ。それにそのためにお前が居るんだし」
【シキ】の右腕とも言われる【ソウ】。つねに彼が動きやすいようにあらゆることに精通しているのも、そして彼の身辺を守るのもサイの仕事の一つ。何か一つでも頭に引っかかったならば、すぐさま打つ手を考え、危険を取り払わなければならない。絶えず神経を使う立場にサイは居るのだ。
「…時々、俺が死ぬときは過労死だと思うときがある」 「…お前の場合笑えねぇよなぁ…ま、仕事が終わったら一時戻るからな、愚痴ぐらいは聞いてやるよ」 「ついでに何日かイルカの相手もしてくれ。俺は寝る」 「それは火影様次第だな〜でも、んな資料の使い方をしてたら無理じゃねぇの?」
むぅと黙ったサイにレツヤは笑い、面を被る。それじゃぁなと、去っていく彼に手を上げて答え、サイは深々とため息をついた。
「なるようにしかならないか…」
最近諦めが早いなぁとぼやきながら、サイは資料を集め封印を施していく。それがすべて終わった後、それまで使った頭を休めるようにサイは眠り込んだのだった。
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