小さい頭の中に囲まれた青年はいつも笑顔を浮かべていた。
きゃあきゃあと、青年の周りを駆け回る忍の卵達。
一体何がそんなに楽しいのだろう。 かつては自分にもあった時代だが、理由もなく楽しんだ記憶はないと、サイは窓淵に肘を乗せて彼等を眺める。
というか、外で遊ぶよりも本が好きだった。友達と居るよりも一人で居る方が好きだった。興味がないと適当な態度を取るサイを、大人達は嘆き、同年代はつまらない奴だと言い捨てたが、それを悲しいとは思わなかった。この性格は祖父譲りだったらしく、それゆえか頑固者と敬遠されていた祖父はサイを可愛がった。とは言っても、自分の蔵書をサイに開放する程度だったが。後に、その蔵書は父にも決して触らせないものだったと聞かされ、祖父にとって自分は特別だったのだと知ったのだが。
うわぁぁぁんと一人の男の子が泣き出した。どうやら別の男の子に頭を叩かれたらしい。 大して痛くもないのに大泣きする子供を見て、サイはウンザリとする。
泣くより殴りかかれよ…と一部の男性には指示されるだろうことを思いながら、たったあれしきのことで泣けることも凄いと思う。助けてと、自分は酷いことをされたんだと、相手の男の子を指さし泣き続ける男の子。指をさされた男の子はぎゅっと唇を噛み、その子を睨み付けていた。次第に他の子供達が責め立てる。
だがサイは見ていた。叩かれた男の子が、相手を転ばそうと足を出していたのを。泣いて周りの同情を引き、自分の非を隠し相手を責めさせる。そのずるさを彼は何時学んだのだろう。そして、言い訳もせずに自分のしたことを認め、その原因を告げることなく口を噤む子供の潔さは。
「ほら、もう泣くな」
青年はまず泣いている子を宥め、頭を撫でる。そして殴った子の頭も撫でた。
そして聞く。
「ほら、二人とも何で喧嘩したんだ?」
すべてを見ていながら。
子供に対しても公平さを失わない、そして何故こんなことになったかを当事者達に考えさせる。自分はこう思ったから、相手がこうしたから。互いが納得するまで話し合わせ、和解させる。それを聞いていた周りも納得し、叩いた子を責めることも、叩かれた子を非難することもせず、元の仲間に戻った。
「…ご苦労なことだな〜…」
自分ならあんな所まで面倒は見ない。 自分達で考えろと言い捨てて、さっさとその場を立ち去るかもしれない。 それとも最初から関わり合わないのか。
でも、そんな彼だからこそ、上に立つことができるのかもしれない。
「お。お前ら〜あそこでサイ先生が暇そうにしてるぞ〜」 「あ。サイ先生だぁ!」 「一緒に遊ぼう〜〜」 「げ」
冗談じゃないと思うも、ここで無視すれば明日の授業が恐ろしい。徒党を組むということを知る子供達の逆襲は、くだらないものとは言え、かなりやっかいなのだ。
「イルカ〜…」
あの笑顔の裏で、お前も付き合えと言っているとわかる人はどれだけ居るだろう。 彼とのつき合いの長さを時々嘆き、無意識に染みついた逆らえないという言葉がとても悲しかった。
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