ぽぉっとまるで帰る者を迎え入れるような灯りが満ちる里。 どんなに屈強な者でもこの灯りを見ると、ほっとするらしい。自分もその一人かと小さく笑いながら、数十分後には着く里へ向かって走り始める。 こんな日に任務なんてついていない。急な上忍任務に火影を呪ったりもしたのだが、独り身の自分には今日の行事など関係ないかと慰めた。任務はすぐに終わり、こうやって帰るだけで一日が終わってしまう。サガラはちょっと空しいかなと呟き、里の門をくぐった。
「ご苦労様です」 「そっちも。こんな寒い中ご苦労様」
今夜の見回りに声をかけると、お互い様ですと苦笑い。親しく声をかけたので中忍だと思ったのか、相手は里を振り返りうらやましそうに里の灯りを見つめた。
「今日は餅を食って、熱燗をひっかけて眠る筈だったんですけどね」 「おや。それは残念だったね」 「ええ。もうアイツが腹なんて壊さなければ〜」
同僚の体調不良のせいで、今夜の見回りとなってしまった彼は、後で驕らせてやるんですと笑いながら、次の見回り場所へと向かっていった。 ゆっくりと足を動かせば、嫌でも灯りが目に入る。その一つ一つに暖かい家庭や大切な人達が集まっているのかと思うと、サガラは少しばかり寂しくなった。 感傷的な自分をらしくないと思いながらも、新年を迎えた声はどれも明るく楽しそうで、何故自分は一人なのだろうかと思ってしまう。別に家庭が欲しいとか、大切な人と過ごしたいとかでもないのだが、時々自分の存在がぽつんと取り残されている気分になってしまうのだ。
「やだね。年かな」
レツヤより若いのにと、本人が聞いたら一つしか変わらねぇだろう!と怒鳴られそうな台詞を吐きながら、家の道を辿る。その時、ぴぃっと夜には不似合いな小鳥の声が響き、サガラの手に降り立った。小鳥は彼の指に触れる寸前一枚の紙切れと変わる。
「…おや」
それを読み終えた彼はそう呟き走り出す。その顔には笑みを乗せて。
「お疲れ様ですサガラさん!」 「お疲れ…ってもう半眠状態か〜特にツバキとレツヤが」
レツヤの家に着けば、そこには顔を真っ赤にして寝ぼけた声を出すツバキと何が可笑しいのか笑い続けているレツヤの姿があった。ザルなサイは我関せずの顔でレツヤの家で見つけたらしい本を片手に、手酌て一人飲み続けている。
「大丈夫です。サガラさんの分の雑煮は確保してますから。すぐに持ってきます」 「ああ、ありがとう」
こいつらの面倒を見てたイルカに同情しながら、サガラが座ると笑い上戸のレツヤが酒臭い息を吐きながら絡んできた。
「ついてないな〜お前。こんな日に任務なんて。雪は酷いし〜寒いし〜普段の行いが物を言うんだぜ!ケケケ!!」
ぴきっとサガラの額に青筋が上がり、レツヤを睨むが酒の入った彼は気付いてもいなかった。それどころか、尚もサガラに絡み…
「うるせぇ!さっさとあっちの世界にいってろ!!」 「ぐはっ!?」
頭にサイからの蹴りを食らい、レツヤはテーブルに突っ伏し動かなくなった。落ち着いて本も読めやしねぇとぶつぶつと文句を言いながら、サイは元の位置に戻ると酒を飲み始める。
「お待たせしました!って…レツヤさんも寝たんですか…全くしょうがないな」 「…」
サガラは肩を竦めて同意を示す。まぁいいかとイルカが暖かい雑煮を差し出した。
「あ、そうだ言い忘れてました。あけましておめでとうございます。今年もよろしく御願いします」 「ああ…こちらこそ…サイも」 「よろしく御願いします」
ちらりと目線を上げたサイだったが、すぐに本へと戻っていった。挨拶ぐらいちゃんとしろよとイルカが文句を言うと、突然ツバキが起きあがる。
「はい!おめでとうございますっ!!!」
そう叫び、再び眠りの世界へ戻っていくツバキ。
「「「…」」」
寝ぼけてやがる…とサイは顔を引きつらせ、んじゃぁと昏倒しているレツヤの頭を揺すった。
「おい。挨拶だとよ。しねぇと毎夜毎夜イルカが背後霊になるってさ」 「……サイ(怒)」 「う…うう…よろしく…」 「お。脅しが効いた」 「(怒)…お前ら…」
雑煮を食べるサガラの横で怒りに震えるイルカと、次第に怯え始めるサイ。いつも顔を合わせることも稀で、好き勝手をやる仲間でもあるが…今年も彼等を共に過ごせることを願ったサガラだった。
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