始まりの年

黒の五色:レツヤ編



待つ人が居ない者ほど、休みというのは邪魔なもの。普段できないことをすればいいと言うが、そのできないことが思いあたらない。

「休みっつーと…女のところに行ったり、飯食いにいったり…?」

特に趣味などない身では、そんなことしか思いつかないとレツヤは肩を竦めた。

「つーかよ。なんでこんなに寒いだよ。まぁこんな雪空に任務がでない方がマシかもしれねぇけどよぉ…」

窓から見えるのは、薄暗い雲と舞い落ちる雪ばかり。先ほどのテレビでまだ止む様子がないと聞きウンザリする。今日一日寝て過ごすか。そう決めて、食事もそこそこにベットの中に潜り込んだ。これじゃ、サイと一緒だと文句を垂れながら。

数時間後、近づいてくる気配にレツヤは目を覚ます。レツヤの住んでいる場所は里から離れている為、人が来るなら奥にある森か自分の家ということだが、こんな雪の日に森に行く馬鹿は居まい。とすれば…

「まさか急な任務ってことじゃねぇよな」

それなら式が飛んでくるか〜と、ベットの中に入ったまま客を出迎えようともしない。だが、近づいてくる気配はなかなかやってこなかった。まるで足止めを食っているかのように…と思った途端。

ゴウッと火遁系の術が放たれた気配を感じ、レツヤは飛び起きた。素早く身支度を整え、クナイを握る。

「この俺に喧嘩売るってか。いい度胸じゃねぇか」

後悔するほど、反撃してやる。そんな不適な笑みを浮かべていたが…


「てめぇーーーー!!レツヤっ!!!さっさと起きろっ!!」

聞き覚えのある声。

「…サイ?」

ガラリと窓を開ければ、再び火遁の術を放ったらしいサイと横で苦笑いしているイルカ。レツヤの顔を見たサイは、うがあっと彼に噛みついた。

「雪かきぐらいしろっ!!いけねぇだろうがっ!!!」

サイの言葉に玄関を伺えば、膝が隠れるぐらいの雪が積もっている。

「…あー…らら」



「ところで何かあったのか?」

イルカとサイを迎えたレツヤは、取りあえず茶を出し、こんな日に訪れた二人に何かあったのかと尋ねたが、道のない場所をずっと火遁で溶かして来たサイは疲れたのか、茶をすすりぶつぶつと文句を言い続けている。イルカは首を振り、持ってきた包みをレツヤへと差し出した。

「…?何だ?」
「やっぱり…気付いてなかったですか」
「こういう奴だって。持ってくるだけ無駄無駄」
「五月蠅いよサイ。それほど量はないんですが…」

包みを解いた中から現れたのは、四角餅。

「今日はお正月ですよ」
「……あ〜…そういえばそんな行事があったけ」

毎日毎日任務続きで、行事に疎くなっているレツヤは、すっかり忘れたと頭を掻いた。

「いつも任務ばかりですから。たまにはいいでしょう?」

台所借りますよと立ち上がったイルカは、手伝えとサイと無理矢理引き連れて行った。それをぼけっと見送って、何となく照れくさい気持ちで二人の会話に耳を澄ます。
数十分後、雑煮を持って来たイルカと当然のように酒を広げたサイ。久しぶりのゆったりした休日に、悪くないと上機嫌になったレツヤだった。