「ふわぁぁぁ…」
大きな欠伸と共に頭をぼりぼりと掻いて、彼はぼんやりと辺りを眺める。まだ昨夜の皿が乗ったテーブルとカップ。視線を落とせば床には脱げ捨てられたベスト。
そう言えば、食事をした後すぐに寝たんだっけ。 眠くて眠くて、半分寝ぼけたまま胃に食べ物を詰め込んでそのままベットに潜り込んだ。現に昨日何を食べたのかは全く覚えていない。そして空を仰げば太陽は真上を通り越して傾いている。 一体自分は何時間寝ていたのだろう、まともなものを食べなかったせいか、ぐうぐうとなり始めた腹の音。面倒くさいなぁと思いつつ、取りあえず顔を洗いに洗面台に向かった。
着る服を考えるのも面倒で里から支給されている服を着込み、馴染みの店へと向かう。彼が現れると店主も心得たもので、いつもと同じメニューをだし、食べ始める彼に苦笑するのだ。
「兄さん、たまには違うものを食べてくれよ。他のも美味しいんだぜ?」 「んー…じゃあ、何か一つ」 「何かって…食べるものぐらい考えてくれよ?起き抜けだろ?何時も以上に面倒くさそうだなぁ」
あれだけ寝たにも関わらず、首を揺らしもそもそと料理を口に運ぶ。前は不味そうな顔で食うなと注意していたのだが、今では店主も諦め新メニューを彼へと渡した。
「ところで、今日は休みだったのかい?兄さん一日寝ていたんだろ」 「まぁ…でも帰ってきたの8時だけど。まだ一日じゃないから寝たりない…」 「…兄さん。もう3時になるよ。幾ら寝れば気が済むんだい…?」
うーんと声にならない声を上げる彼に、店主が肩を竦めれば新たな客が店の扉を開けて入ってきた。らっしゃい!と威勢のよい声を上げたが、入ってきた人物の顔を見て店主の顔が引きつった。
「サイ!!」 「んあ?イルカ?」 「イルカ…じゃないぞお前っ!!」
何故かカッカとしてるイルカに、まだ頭を揺らしているサイはのろのろと彼を見返した。その表情を見て、イルカは怒りより呆れてしまい、続ける言葉を見つけられなかった。
「お前…人が心配していれば」 「…心配?何でだ?」 「何でって…急に休めば驚くだろう!任務でもないのに!」 「…休み?俺そんなもん取ってないぞ」
ようやく目が覚めてきたサイが、パチパチとイルカを見れば、店主とイルカの顔が引きつっている。
「お前…まさか今起きた…?」 「ああ。だって俺今日休みだもん」 「馬鹿野郎ーーー!!!休みは昨日だろうがっ!!」 「…は?」
ぽろりとサイの手元から箸が落ち、だらだらと冷や汗を出し始めた。まさか、そんな。笑い飛ばしたいのに、イルカの顔がそれを許してくれない。だが…口に出さねばもっと怒りそうだ。
「俺…一日と半日寝てたのか…?…道理で腹が減ってると思った…」 「頷くのはそこじゃねぇぇぇぇ!!!」
イルカの怒鳴り声が店を飛び出し、通りまで響いていく。何だ何だと店を覗き込んだ人達が見たのは、目の据わったアカデミー教師がこれ以上にないぐらい身を縮めている青年に説教をしている姿だったという。
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