「私この里が大好きだよ」
小さな頃からずっとずっとそう言って、いつも窓から見える風景を幸せそうに眺めていた。 何も変わらない、何も動かない。毎日毎日同じもの。なのに、楽しそうに嬉しそうに飽きもせず、毎日毎日そこから眺めていた。
「暇人だな」
そう言えば小さな頬を膨らませて、情緒のないだとか、どこから覚えてきたのか難しい言葉を使って年長者のように呆れた顔をする。 だがそれが一番幸せだった時なのかもしれない。
動かなくなるその手を握りしめて、苦しそうに吐く息をただ眺めるしかない。なのにその目は笑っていて。
「ざぁん…ね…ん…」
小さな声でそんなことを呟く。 そこには死へと旅立つ苦しみとか、恐怖はなくて、ただ本当に残念だと達観した顔があって。 本人はとっくの昔に覚悟していたのに…できていなかったのは、自分なのだと思い知らされた。
「何が」
もし自分にできることがあったなら、何かを食べたいとか、見たいとか、どこかに行きたいとか。 もし本当に願うなら、どんなことをしてもそれを叶えてやろうとそう思った。 なのに言った言葉は。
「もっともっと知りたかった…そして…いつか…」
里の為に生きたかった。
小さな頃から病弱で、大好きな里に何もできないことを恥じていた。 だったら動けなくてもいい。 毎日小さな部屋で過ごしてもいいから、それに勝るとも劣らない知識を得たいと、片っ端から本を読んで。 歴史書、戦術書、芸術から数学書までありとあらゆるものを吸収し、それをいつか役立てる時があるのだと、希望を持って生きていたのに。
自分の手を握っていた小さな指から力が抜けたとき、彼女の魂とともに希望も消えたように見えた。
しばらくの間は何をする気も起きなかった。 ただ失ったという大きな虚脱感が体中を包み、それを埋めるように彼女の読んだ本を読み漁っていた。 まるで彼女の希望を取り戻すかのように。
何もできず、ただ手を掴んでいるだけは嫌だと、薬学の道を選び取んだのは二番目の希望。
一番目の希望は…彼女の望みが叶う瞬間を隣で見ていることだった。
それはもう永遠に果たされない。 里に抱かれて永遠の眠りについてしまった…妹は。
毎年墓参りはかかさない。 忍ではない者が眠る一般の墓地。 白い花を捧げて、名前が掘られている墓石をなぞる。
「少しでも…お前の希望を叶えられていたらいいんだけど」
でも逆に怒るかもしれない。 それは私のものよって…笑いながら。
「何時か会えたとき楽しみだな」
さわさわと揺れる風の中、サイは澄んだ青空を眺めた。
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