額当て




交換しましょう。

そう言って、戦場に行ってしまった人はまだ帰らない。


職員室で、一人仕事を片づけているイルカは無意識に額当てに手を伸ばしている自分に気付く。もう今日で何度目だろうか、一向に任務から戻ってこないカカシを思い出して深くため息を吐いた。

何でも戦場は今、混沌としているらしい。
泥沼化しているという状況に、彼は任務を終えることができないのだ。いや…彼だけではない、一緒に向かった忍達も。
本来ならもうとっくに帰ってきている筈だった。だけど…もしかしたら彼はそれに気付いていたから、額当てを交換しようと言ったのかもしれない。


イルカ先生と一緒に居られる気がするから。
彼の甘えに何故頷いてしまったのだろう。もしこんなことをしなければ自分は…とそこまで考えて、それをしなくとも自分は彼の心配しただろうと思って苦笑する。

すすりと額当てを外してじっと見る。
早くただいまと言って戻って来て欲しい。

そんな願望が叶ったのか、額当てにカカシの顔が映った。ここまで自分はカカシに飢えているのかと、己を情けなく感じていれば。


「ただいま。イルカ先生」

幻をうち破り、イルカの元へと辿りついたように彼は笑った。

「……っおかえりなさい……カカシ先生」

いつの間にかカカシも額当てを外し、二人は額をくっつけ合う。そして目を閉じて、互いの存在を確かめるように唇を合わせた。

額当て (2006.12.15)