イルカ先生は意地悪だと思う。 一向に止まる様子のないペンを恨めしげに見ながら、それでも振り返らないイルカに寂しくなった。 彼がいつも忙しくて、自分と少しでもいるために家に早く帰ってくるのはわかる。わかるからこそ、ここずっとそれが終わるまでは大人しく、本でも読んでその時を待っているのに。 「…イルカ先生〜」 「…」 返事もしてくれない。 きっと今日あった生徒が書いた演習の感想文を読んでいるのだろうけど、真面目なイルカはそれに丁寧に自分の感想を書き加えている。じっくりと、そしてわかりやすいように。時計の針が二人の時間になっている刻をとっくの昔に通り越しているのに、答えを返すどころか返事もしてくれない。 俺が寂しがっているのを知っている癖に。 ぴとりと何となく背によしかかってみる。それでもイルカは何も言わなかった。むっとなりながら、カカシがびったりくっついてもイルカは何も言わない。 …反応ぐらいしてよ 「…カカシ先生」 「はいっ!?」 ようやく聞けたイルカ声。イルカが好きだと言ってくれる笑顔を見せたのに。 「重いです」 「………」 ついにカカシはふて寝を決め込んだ。 (あ〜あ、膨れたまま寝てるよ。この人) カカシの寝顔を見て、イルカはくすくすと笑う。だが、熟睡しているのかカカシはぴくりとも目を覚まさない。 (忍なのにね…いいんですか?カカシ先生) 彼が自分前だからこそ安心して寝ているのだと、そう思うと零れる笑みが止まらない。 「…でもこうでもしないと、貴方は寝てくれないでしょう?」 一週間の任務が終わったばかりなのに、人の傍からべったりと離れない。傍にいた気持ちはわかる。わかるが…そんな時ぐらいゆっくりと休んで欲しいと思う。 「ごめんなさい。カカシ先生」 その変わりに今日はずっと傍にいますから。 柔らかい銀色の髪に口づけを落として、イルカは彼の頭をゆっくりと撫でる。僅かに身じろぎしたカカシだったが、やはり起きる様子はなかった。 「良い夢を」 イルカはいつまでもカカシを見つめていた。 意地悪 (2003.5.9) |