しんしんと、朝から降り続ける雨の音。
ぼうっとアカデミーの中からそれを見るイルカは、だんだんトロンとしてきた瞼にあがらえなくなってきた。

アカデミーも休みの土曜日。どうしても仕上げなければいけない書類のためにわざわざ出てきたのだが、しんと静まった職員室は寂しくて。いや、それでなくとも雨の日は眠くなるというのに。

(…この規則だ正しい音がだめなんだよなぁ)

ついに眼を瞑ってしまったイルカの耳に、優しく静かな雨音だけが響く。
どこか心地よくそして悲しい音。

家の中でこの音を聞けば、していたことも放って置いていつの間にか寝ていたこともあった。ふと眼を覚ませば真っ暗闇。起きても誰もいないことに昔はとても悲しくて、一人涙することもあったけど。

「イルカ先生?」
「あ…?カカシ先生?」
「…折角の休みに仕事に出かけたと思えば、何眠っているんですか?」

むうっと少し膨れたような顔で(とはいっても殆ど表情はわからないが)、カカシはイルカを見下ろしていた。

「…何笑っているんですか」
「え?笑っていますか?俺?」
「………それが笑っていないなら、何だって言うんですか…」

肩を竦めたカカシにすみませんと一つ謝って、イルカは自分の頬に触れてみる。…いや触れてみなくても、ぽっかりと心が温かいことに気づいていた。

「カカシ先生が起すから」
「…人を放っておいて挙句こんなところで寝てられても、ちっとも嬉しくありません。だったら早く帰りましょう。帰って一緒に寝ましょう?」

それがいいと、イルカの腕を軽く引っ張る。子供だったら、ねぇねぇといった態度だろうか?

「あと一時間、待っていて下さい」
「…わかりました」

ペンを持ち、机に向ったイルカを諦めて、カカシは傍にあった椅子を引き寄せ大人しく座る。取り出した本は子供達から非難を受けている本だが、今日ぐらいはとイルカは目を瞑った。

しんしんと静かになった職員室に響く音。だけどカカシが傍にいると思うだけでもう眠くはならない。
それに…

(寝たとしても最初に見るのは貴方だから)

闇に怯えることはないし、逆に貴方の寝顔を見れて嬉しくなるかもしれない。

「…イルカ先生」
「はい?」

笑い声が漏れていたのか、訝しげなカカシの顔。だけど笑顔のままイルカはそれを交す。

雨も悪くないと思い始めてきたこの頃。

雨 (2003.4.30)