嫉妬




思わずピタリと止まってしまった。
おまけに凝視まで。
そして、はっと気がついたように回れ右をして、気づかれぬよういつもより早足で去っていく。

楽しそうに、カカシと横に並んでいるくの一。

その光景になんでこんなに胸がむかむかするんだろう?



「イルカ先生」

仕事を終えて、アカデミーを出た途端、門を背から離すカカシに声をかけられた。にこにこと、最近わかるようになった笑みというものを浮かべて。だが、イルカはむっとしたまま小さく頭を下げて、カカシの前を素通りする。

「イ…イルカ先生!?」

慌てたように後を追ってくるカカシの声。
しかしイルカは振り替えれない。

ああ…自分は何でこんなに機嫌が悪いんだろう?
お陰で今日の自分は散々だ。
ミスはするし、些細なことに腹を立て、それを子供達も敏感に感じ取っていたのか、いつもより大人しかった。
一体自分は何をやっているのだろう?
何にそんなにむかついているのか。

なんで…

「…イルカ先生っ〜」

先ほどから自分を呼んでいたのは知っていたが、あえて無視していたイルカ。だが、自分を呼ぶその声に、情けないような、悲しいような、まるで叱られた子供のような気配を感じ取り、あいかわらずむっとした顔で振り返る。

「俺…何かしましたか?」

肩を落としているのが端から見てもわかる。
何もしてない、彼は何もしてない。ただ自分が怒っているだけ。
怒って…一体何に怒っているんだろう?

「…イルカ先生?」

自分の顔色を窺うように、そろっと視線を上げたカカシ。
自分より年上で、力も実力もある彼が、自分の機嫌を窺っている。
そう思った途端、すっと何かが自分の中で引くのがわかった。

「…すみませんカカシ先生」
「え!?あの…」
「俺ちょっと今日虫の居所が悪くて…当たってしまいました。申し訳ありません」

深々と頭を下げれば、カカシが慌てたようにそれを止めるよう言ってくる。

「じゃ…俺に何か怒っているというわけではないんですよね?」
「…はい」

そう言えば、ほっとしたカカシの顔。
心底安心したような、安らいだ笑顔で。

「お詫びに今日俺が奢ります」
「気にしないで下さいよ〜」

気にするなと、動かしていたカカシの手を思わず掴んでいた。

「行きましょう、カカシ先生」

硬直するカカシの手を無理矢理引っ張って、イルカはずかずかと歩き出す。後ろから何か言っている声が聞こえるが、それに気づかない振りをして。

あんな顔を見れるのも、こんな風に手を繋げるのも自分だけだと。


顔も知らない人々に嫉妬していたイルカは、それだけで優越感に浸っていた。

嫉妬 (2003.11.28)