「こんにちは〜カカシ先生〜ってあれ?いないのかなぁ?」 いつもイルカの家ばかりなので、たまには場所を変えてみようと、カカシの家に来ることになったイルカは、夕方前に終わったアカデミーをいそいそと去りやってきた。だが、提案をした当の本人は居らず、イルカは主のいない部屋の前で途方に暮れていているしかなかった。 酒盛り用にと、買った酒とつまみを眺め、急に任務でも入ったのかと心配になったが。 「ウォン」 「…あれ?」 突然、自分の存在を知らしめるように声を上げた方向を見れば、そこには一頭の犬。 びしっと足をそろえてお座りしている犬の首には、木の葉の額当て。 「…忍犬か?うわぁ…すごい…」 イルカの感嘆の声に気を良くしたように、犬は得意げな顔でしっぽを延ばす。動物好きだが、アカデミーの仕事が忙しいせいで、生き物は飼えないイルカは、そっと忍犬へと手を伸ばした。よほど主に大事にされているのか、毛並みも良くすべすべしている。イルカの手つきが気持ち良いのか、忍犬もまんざらではないようだ。 しばらく、カカシのことも忘れて忍犬と戯れていたイルカだが、ふと常識的な疑問が頭に浮かんだ。 …なんでこんな所に忍犬がいるんだ? それに、よくよく考えてみれば、忍犬が主以外の人物に触れさせるわけもない。これは、一体どういうことなんだろう。 そんな疑問を持ち始めたイルカを察したように、忍犬が立ち上がる。 そして、ついてこいというように、一声鳴いて走り出した。 どこまで行くんだろう… カカシのアパートからかなり離れた森を、イルカは忍犬とともに駆け抜けていた。忍犬のスピードに合わせるには、酒は邪魔だったので置いてきてしまったが、大丈夫だろうかと貧乏根性がわき起こる。 やがて、忍犬の先には森が晴れ、流れる川が見えてきた。 「…ここは…?」 「ウォン!」 忍犬が何かを合図するように一声鳴けば、それに答えるように次々と犬の鳴き声。 「…え?」 「あ、イルカ先生こっちです」 わんわんと吠える犬の間から、こちらに手を振る青年一名。 「…カカシ先生?」 「はい。わっ!待てお前!まだ拭き終わってないだろう!」 一頭の体をごしごしと、タオルで包めば、犬はすまなそうな顔をしながらも、嬉しそうに尻尾をぱたぱたとさせている。 イルカはカカシの傍に降り立つと、ずらりと行儀良く座る犬たちを眺めた。 「カカシ先生の忍犬ですか?」 「ええ。今日任務がなかったので、こいつらとつき合ってたんですよ、ちょうど汚れていたもので洗ったんですが、ぎりぎりでしたかね?」 暮れていく夕日をちらりと見て、カカシはイルカへ首を巡らした。 「いつ来られてもいいように、一匹アパートの前に置いて置いたんですが、正解でしたね」 「ああ、すいません。今日早く終わったので…って、な…何?」 カカシと会話を始めると、犬達がふんふんと、イルカを囲み臭いを嗅いでくる。 もしかして、カカシの危険物かどうか確認してるのか? ちょっとひやりと思いながら、それでも立っていると、一頭の犬がぽすりとイルカの足に前足を上げてきた。 「うん?何だ?」 思わず腰を屈めて、犬に顔を近づければ。 べろん。 「わっ!?」 突然顔を舐められて、イルカは驚く。しかし、犬の振る尾を見てイルカは笑みを浮かべた。 「ちょっと…くすぐったいよ」 よしよしと頭を撫でれば、犬たちが俺も俺もというように、イルカを囲み始める。イルカは笑いながら一頭一頭頭を撫でていると、カカシの前にいた犬もそれに参加し始めた。 「あっ!お前っ!」 飼い主より、突然現れた青年に興味津々の犬たち。あきらかに、好意を見せる彼らを眺めながら、カカシは呆然としていた。 …お前ら、どうしてそんなにわかりやすいんだ? 犬たちもイルカのことを気に入ったに違いない。自分以外にこんなになつく彼らを始めて見た。 だが、それはカカシがイルカに好意を持っていることが前提で。それが無ければ、彼らはあんな行動にはでない。 犬は飼い主に似る。 その言葉を思い出して、カカシは真っ赤になった。 「うわっ!もう勘弁してくれよっ!」 全員から顔を舐められて、イルカが嬉しい悲鳴を上げる。それを見て、カカシがむっとなった。 「お前らっ!いい加減にしろっ!!!」 ちょっと羨ましいと思いながら、カカシは怒鳴り声を上げたのだった。 忍犬 (2003.10.29) |