好きですと、カカシに告げられてから一週間。 大した怪我もないと、早々に退院したカカシはいつものように子供達とともに任務にでている。 告白されたからと言って、イルカとカカシの関係は変わらなかった。 受付所で言葉を交わし合って、時たま夜の食事を共にする。前と変わらないカカシとの関係に、イルカは時々あの日のことが夢でないかと思う時があるのだ。 そんなことを思っていたある日。 「…カカシ先生。今日ずいぶんとご機嫌ですね」 「?そうですか?」 早々に覆面を外して、イルカの作った食事にありついていたカカシは、イルカの言葉に眼を丸くする。 何かあっただろうかと、今日あったできごとを思い返して見るも、ナルトがまた失敗したとか、サスケが仲間と協力しないことかばかりで、自分の機嫌が良くなるだろうことは何一つ思い浮かばなかった。 「…どこが機嫌良いんでしょう?」 「…いえ、俺に聞かれても…」 逆に問い返されたイルカは、きょとんとして自分を見返すカカシに困った顔になる。自分でも何故そう思ったのかわからない。だが、そう感じてしまったのだ。 「機嫌というか…嬉しそうだったから…」 口ごもりながら答えたイルカに、カカシはあ、何だと頷く。 「やっぱり何かあったんですね?」 勘違いでなかったことにほっとして、イルカが聞き返せば、カカシはええと笑った。 「イルカ先生と一緒ですから」 「………は」 「だから嬉しいんです」 カカシの答えを理解するのには、少し時間が必要だった。しかし、それが脳に届いた途端… 「…なななななーーーー何を言ってるんですか!カカシ先生っ!!!」 顔を真っ赤にしているイルカに、カカシは端を加えて、目をぱちくりさせた。 「何で驚いてるんですか?イルカ先生」 「おおおおお驚くでしょうが!!お…俺といるからって…!!!先生っ!」 「だって事実ですから」 何故イルカがそんなことを問うのかわからないと、カカシはイルカを見返していた。 さらりと!何さらりと言ってるんだよ!カカシ先生はっ!!!!! 照れ屋で不器用な自分は、間違ってもそんなことを言わない、というか言えない。逆に聞いたこともないので、イルカは半ばパニックになっていた。 さも当然のような顔でそんなことを言って、何か可笑しいことを言っただろうかと悩んでいるカカシ。 ふいに一週間前好きだと言われたことまで思い出して、余計に顔を赤くしてしまう。 「…イルカ先生」 「はははは…はいっ!?」 「…イルカ先生は嫌でしたか?俺といるの」 うつむいたまま、自分の顔を見ようとしないイルカへ、カカシは不安を募らせたようだ。 沈んだ彼の声に、慌てて顔を上げれば、そこには少し寂しそうな顔をした上忍。 あ… 自分の動揺を抑えるのに精一杯で、こんな態度を取られたカカシのことを考えていなかった。 イルカは、それを恥ながらぶんぶんと首を大きく横に振る。 それを見て、カカシがほっとしたように微笑んだ。 「…今日ね、アスマに言われたんですよ。お前落ち着いたなぁって。何を言っているんだろうと思ったんですが、あいつが言うには俺っていつも、何に対しても感心がなくて、近づくなって言うバリアー張ってたらしいんですよ」 「…カカシ先生…?」 「それがね、最近ないんだって。それ聞いて自分でも驚いたんですよ。でもそれってイルカ先生と会ってからなんですよね。先生のお陰です」 「そ…そんな!俺は何もしてないし…!」 とんでもないと首を振るイルカへ、カカシはにっこりと笑った。その笑顔にイルカはどきりと胸を高鳴らせてしまう。 「イルカ先生は俺の精神安定剤なのかもね」 彼と始めて会った時、なんて感情の起伏がない人だろうと思った。しかし、一週間前を境に、カカシは変わり始めている。 まだ数は少ないものの、笑顔を見せてくれるようになった。 それを見る度に、自分の胸がどきどきするのは何故だろう。 イルカは、自分の思いをもてあましながらも、勇気を振り絞ってそれを口に出す。 「…俺もカカシ先生と一緒にいると、嬉しいですよ」 その言葉を言えば、笑ってくれると確信して。 精神安定剤 (2003.10.23) |