ようやく眠りについたカカシを見ながら、イルカは溜息をつく。彼にからかわれていたのだと、勝手に決めつけ彼と合わないようにしていたというのに、それはカカシを追いつめる結果となってしまったようだ。 自分を好きだと言ったカカシ。 もしかしたら、この怪我もそれが原因なのかもしれない。カカシが病院に運ばれたと教えてくれたアスマだが、彼は今回のような任務で怪我を負うような奴ではないと呟いていた。 それが事実とすれば、イルカは任務に集中できないほどの苦しみを彼に与えていたことになり、申し訳ない気持ちで一杯になった。 「ん…」 身じろぎするカカシが、イルカの手を握った。まるでそこにあるのか、確認したようなその行動。イルカが握り返せば、カカシの顔は穏やかになり、寄っていた眉が離れていく。 そんな彼の仕草に、イルカの顔は綻んだ。 いつも覆面で隠していた素顔は、予想通り整っていたが、思いの外幼い印象も受けた。こうやって、自分の手を握り、眠る様子を見れば尚更。 何かに怯えていたのだろうか。必死に自分の気持ちを理解してもらおうとしていたカカシ。 好きだから、死なないで。 あの一言がイルカの胸から離れない。 コツン。 何の音だろうと、窓を見れば一匹の蟲が、窓ガラスにぶつかってしまったらしい。何が起きたのかわからないというように、窓の縁でうろうろした蟲は、やがて羽根を広げると、闇の中をよたよたと飛び出した。 まるで、それが、傷つきながら闇に立つカカシに見えて。 「…俺はここにいます」 貴方は一人ではないと、思いを込めてイルカは呟いた。 蟲 (2003.10.23) |