人の温もりを感じるのは何年ぶりだろう。 昔から、人付き合いは苦手で、敬遠されていた自分だけど、お節介な奴らは沢山いて。その筆頭が自分のスリーマンセル、九尾との戦いで死んだ四代目だった。 彼が死んだ時、自分の気持ちをもてあましていたのを覚えている。 いつもイライラ。胸が苦しくて、叫びたくて、でも何を言いたいのかわからなくて。没頭するように任務についていたけれど、その正体はわからなかった。 時がたって、暗部にいた頃、またお節介な奴と知り合った。けれど、そいつもSランクの任務で失ってしまった。 再び、イライラ。苦しくて苦しくて。 この感情は何だろう、どうしてこんな気持ちになるんだろう。訳がわからなくて、壊れそうになっていた自分に、アスマが言った。 「悲しいんだろう。お前は」 横を向いて、タバコを吸いながら、あいつはそう言った。 …悲しい?自分が?どうして? そう問い返せば、あいつが同情したような眼で自分を見つめた。そんなことを知らなかった自分を哀れむように。 「お前はそいつらのことが好きだったからさ」 好き。 その言葉ほど自分に不釣り合いなものはない。それを聞いたとき、自分がそんな感情を持っていたことに酷く驚いた。しかし、同時に胸の隙間はパズルのようにぴたりと嵌って。 その時、初めて涙を流した。 カカシはイルカの髪を撫でながら、イルカと会えなかった時の自分の心がその時の焦燥感と同じであることを知る。 でも、貴方はここにいる。 あいつらと同じように死んでない。 「…あ…カ…カカシ先生っ!?」 その時、ようやくイルカが眼を覚まして、ぱっと自分の手を離したことにカカシは悲しくなった。 「お…俺…」 「眼あけたらイルカ先生がいるので、驚きました」 「あ…その、アスマ先生にカカシ先生が怪我をされたと…」 「そうですか…」 なんで、あいつわざわざイルカ先生に言ったんだ? 首を捻っていると、イルカががたりと立ち上がる。 「俺…帰りますね!もう大丈夫のようですし…」 「え…?」 「それじゃ…」 「イルカ先生!!!」 今にも走り出しそうなイルカに、カカシは慌てて彼の名を呼んだ。叫ぶということを、久しぶりにしたと頭の片隅で思いながら。 イルカはカカシの呼び声に足を止め、ぎこちなく振り返る。カカシはそこで始めて自分がイルカの袖を掴んでいることに気づいた。 「好きです。イルカ先生が」 カカシの言葉に、イルカが息を飲む。そして、顔を歪めた。 「…カカシ先生。俺は…冗談を聞き流せるような性格じゃないんです」 「え…?」 「からかうのは止めてください。俺は…」 「冗談じゃありません!俺はっ!!!」 まさか、そんな風に思われているとは思わなかった。 確かに前の時は、半分戯れだった。けれど、嘘をついているわけではなかったのに。 だから、俺に会わないようにしていたのか? からかわれるのが嫌で? 俺が…冗談を言っていると思って…? 「冗談じゃないっ!俺は貴方のことが好きなんだ!本気でっ本気で好きなんだっ!!!」 ぶんぶんと子供のように首を振って、カカシはぎゅうっとシーツを握りしめる。 「カ…カカシ先生…?」 「好きなんです。俺は本当にっ!!!」 「カカシ先生!」 何かに怯えるように、好きですと繰り返すカカシ。いつもとは違う彼の様子に、さすがのイルカも慌て始め、自分の袖を握るカカシの手を握りしめた。 「イルカ先生っ!俺は…」 「わかりました。わかりましたから、落ち着いてください」 カカシの腕が伸びて、イルカの腰にぎゅっと抱きついた。自分の胸に顔を埋めるカカシを見下ろしながら、イルカは彼の好きなようにさせることしか思い浮かばなかった。 「…好きなんです…だから…」 死なないでください。 その言葉に、イルカは動けなくなった。そして躊躇うように指を動かし、銀髪をそっと撫でた。 好きなんだ! (2003.10.10) |