ケンカ




「ん…?何だ?」

いつものように、大幅な遅刻をして下忍達との待ち合わせ場所へと向かっていると、カカシの耳に怒鳴り声が聞こえてくる。それが、少年2人のものであるとわかり、また何か言い合っているのかと、カカシは溜息をついた。

まったく…ライバル視するのもいいけど、周りの迷惑も考えて欲しいよね〜
自分の遅刻癖を棚に棚に上げながら、それでも歩くペースを速めないカカシ。
だが、今日のはいつもと違ったらしい。

「あ!カカシ先生!!!」



カカシの姿を見た途端、ナルトと共に文句を言ってくるサクラが、ほっとした顔でカカシの元へやってくる。わずかに潤んだ目から、彼女が心底困っていたのだと知った。

「サクラ?」
「カカシ先生…私っ…」

ぎゅっと唇を噛みしめて、サクラは罵り合っている少年を振り返る。カカシが来たせいなのか、先ほどより声は小さくなったが、互いを見つめる目はぎらぎらとしていて、今にもつかみ合いの喧嘩になりそうだった。

「お前ら何やってるの?道の真ん中で、近所迷惑だよ」
「だってカカシ先生っ!こいつが!」
「ふん!うるさいんだよドベ!!」
「なっ…サスケだって何も知らないくせに!!!」
「もう止めてよっ!!!」

一体何があったのか。
再び大声を上げ合う2人に、カカシはめんどくさいなと、頭をぼりぼりと掻いた。

「ほら、任務行くぞ〜さっさと歩け」

カカシはくるりと背を向けて、今日の任務子守の場所へと歩き出した。



「それで?ケンカの原因は何だったんですか?」
「それがですね…どうやら鳥の育て方らしんですよ」

ナルトが昨日、鳥の雛を拾った子供達と出会ったことを話しているうちに、その鳥が育つかでケンカになったという。

「な〜んで、そんなことであそこまでなりますかね」

カカシがそう言うと、隣を歩くイルカが笑った。

「あいつらはなんでもライバル視してますからね、互いに引けなくなったんでしょう」
「そういうもんですか?」
「そうですよ。それにケンカは互いを認めていないとできませんからね。ナルトもサスケもあんな風ですが、互いを認めていると思いますよ」

ふ〜んと、イルカの言葉を聞きながら、そういうものかとカカシは頷く。
ケンカ、自分はしたことが合っただろうか。無言になって、しばし過去の記憶に思いを馳せるも、答えはでてこなかった。

…ああ、でも良く突っかかってはいったっけ。
子供扱いが嫌で、不平不満を言っても、笑って返してくれる人。だが、任務の時だけは厳しくて、意見の相違というかほとんどカカシが悪いのだが、大声で怒鳴りあったことがあった。
思えばあれば、ケンカだったのだろうか?
ああやって怒鳴りあったことは、あの人としかしたことがない。それは、イルカの言う通り、あの人に言っても大丈夫だという無意識の信頼があったのだろう。

「…なるほど」
「?何か言いましたか?カカシ先生」
「いえ。何でも」

やはり、イルカは面白い人。自分が気づかなかった感情や思いを呼び起こしてくれる。

「さ、早く行きましょうよ。俺腹減りました」
「そうですね」

にこりと笑い返してくれたイルカとともに、歩くカカシは、いつか彼とケンカが出来れば良いなと小さな野望を抱いたのだった。

ケンカ(2003.9.29)