酔い




珍しく頭がくらくらする。
これは完全に飲みすぎだと、カカシは同じく目の前で顔を真っ赤にしながら、大笑いしているイルカを眺めた。
最初はかしこまっていたイルカも、だんだんと酔いのせいか、相手が上忍ということを忘れ去ったようだった。

「どうしました?カカシ先生」
「いえ、何でも。どうぞ」
「あ、すみません」

カカシから酒を受けて、ふにゃりと嬉しそうに笑う。それでも、彼の態度は丁寧で酔っぱらっているというのに、羽目を外すことはなかった。
これはちょと以外。

「イルカ先生は、いつもそんなに真面目なんですか〜?」
「は?」

カカシの言葉に、イルカは手で杯を持ったままきょとんとしている。何か不可解なことを聞いたでも言うように。

「いつも丁寧だしね。同僚と来てもこうなの?」
「…さぁどうでしょう?あんまり気にしたことがないのでわからないですよ。…でも俺は真面目なんかじゃないですよ?カカシ先生」

…貴方がそれを言うか。
イルカのことをどう思う?と聞いたら、必ず真面目という言葉が入ってくるに違いないのに、当の本人はそれを認めたくないのか、真面目ではないという。だったら、どんな人が真面目なのか。カカシは酔っているせいもあるのか、ついイルカに絡むように問いかけた。

「じゃあ、真面目な人ってどんな人ですか?イルカ先生?」
「え?そうですね〜カカシ先生見たいな人でしょう」


…は?


イルカの返答に、カカシは完全に固まってしまった。

俺が真面目?物事に頓着しない、やる気のないと言われる俺が!?
ぴしりと完全に固まってしまった上忍に、気づいていない様子で、イルカは続きを言った。

「端からみればそうは思われなくても、貴方がナルト達…下忍に対する態度はとても温かい。放っているようで、ちゃんと見守り、必要な時にはその手を差し伸べてくれる。貴方ほど誠実で真面目な人はそういませんよ」

にっこりと、相手を穏やかにさせる笑みを浮かべて、イルカはそう言った。
もう動けない。
カカシは目の前でぐいっと、酒を喉に流し込んだ中忍をただ眺めているしかなかった。
これまで生きていて、任務に明け暮れる毎日。気のあった友人や、尊敬する人たちはいたけれど、自分にこんなことを言ってくれた人はいなかった。

「カカシ先生?酔いました?顔が真っ赤ですよ」
「え…ああ…そうかも…少し…」
「なら、お水もらいましょうか!まだまだいけますよね!すみません!!」

手を挙げて、店員を呼ぶイルカ。

何なんだこれは。
ぎくしゃくしている体と、杯に入っている酒が、目元を赤くしている自分を映している。

…俺は酔っている。酔っているから、赤いんだ。
カカシはしきりにそう言い聞かせながら、覆面を素早く下ろして酒を飲み干したのだった。

酔い(2003.9.22)