星屑




「…すいませんでした、カカシ先生」
「はぁ?別にかまいませんけど…」

先ほどから仕切に謝るイルカに、カカシはいい加減うんざりしていた。飲みに行こうと誘われたものの、急にイルカは火影に仕事を頼まれてしまい、2時間ほど待たされたのだ。別に愛読書を読んでいれば、時間などすぐすぎるし、気にするなと行っても、上忍であるカカシを待たせたせいなのか、イルカは何度言っても謝ることを止めない。

…真面目だなぁ。
「あの…カカシ先生」

…またか。
また詫びの言葉?カカシは小さく溜息をつき、どうにかこの話題から逃れられないかと、辺りに目を向ける。が、有るのは暗い夜道と、遠くから聞こえる人の声ぐらいなもので、彼の気を逸らすものは見あたらなかった。しかし…

「カ…」
「イルカ先生って星好きなんですってね」
「は?」

カカシの唐突な言葉に、きょとんとイルカは目を丸くした。立ち止まったカカシにつられるよう空を見上げれば、空一杯に広がる星屑の海。

「ああ…すごい…」
「ナルトがね、昨日流れ星を見たって言ってたんですよ。イルカ先生が星が好きで、よくつき合わされたって。寒くても外に出るから困るってね」
「…あいつ…余計なこと…」

夜目でもわかるほど、顔を真っ赤にしているイルカは、くすりと笑ったカカシから顔を背けるように、口を結ぶ。

「今日は星が綺麗ですね」

ほうっと溜息をつくように、イルカが呟く。いつも子供達に見せるとはまた違った、穏やかな顔をカカシが眺めていると、イルカがあっと叫んだ。

「カカシ先生!見てください!流れ星!」

きらきらと、いくつもの星が空を流れる。カカシも始めて見る大量の流れ星に息を飲んでいた。

「流れ星が消える前に願い事をすれば、願いが叶うんですよ。知ってました?」
「…いえ」

あれが消える前に?それは難しいんじゃないかと、思ったカカシだが、驚いたことにイルカは目を瞑って願い事をしているらしい。
願いなどは、誰かの力を借りずに自分で叶える物。そう信じて疑わないカカシだが、イルカのその行為を馬鹿にする気にはなれなかった。

それは多分…

「何を願ったんですか?」
「…みんなが無事に戻って来ますようにと」

彼が自分のことを願わないとわかっていたから。

「行きましょうか」
「はい!」

どうやら、カカシを待たせたことは忘れてくれたらしい。弾む会話をしながら、二人の足はようやく目的の場所へと向かい始めた。

星屑(2003.9.22)