甘い





「イルカ先生ーー受かったってばよ!!!」

ナルトの声に、彼を迎えた忍が驚きの表情からくしゃりと泣きそうな笑顔に変わる。

「やったな!!ナルト!!」
「当然だってばよ〜!!!」

自分の腰に飛びついたナルトを受け止め、イルカは笑う。そして同じ班のサスケとサクラの労もねぎらった。

「よくやったな!」
「えへへ〜」
「………」

少し顔を赤らめて、誉め言葉を受け取る二人。カカシは騒がしい彼らに、小さく溜息をついて、イルカの隣にいた火影へと報告書を出した。

「ついに年貢の納め時か」
「そうなっちゃいましたね〜」

してやったりの火影の笑みに、カカシは何気なく返すもちょっとむっとして。まだ笑い会っている彼らに背を向けた。

「明日寝坊するなよ〜」

ひらひらと手を振って、受付所を出ようとしたとき呼び止められる。

「あのっ!!!カカシ先生!!」
「……はい?」

自分を呼び止めた思わぬ人物の声に、カカシが振り返るとナルトに飛びつかれたままのイルカが、こちらに向かって頭を下げているところだった。

「こいつらのことよろしくお願いします!」

…はぁ?
思わずそう呟きそうになったが、火影の眼光にそれだけはしないですんだ。

よろしくって…アンタこいつらの親か何かなわけ?たかが、受け持っていた生徒にわざわざ…

甘い…甘すぎる…

顔が引きつりそうになるのをどうにかこらえ、こちらこそとどうにか返すも、イルカに対する印象は最悪になっていた。
しかし、イルカはそんなことに気づかず、満面の笑み。

「イルカ先生は心配症だってばよ!俺ってばもう一人前なんだもんね〜」
「「…誰が?」」
「あっ!酷いってばよ!サクラちゃん!!サスケむかつくってば!!!」

ぎゃあぎゃあと始まった騒音。カカシはこれからこれにつき合わされるのかと思うとうんざりする。

「はぁ〜失敗したかも…」

背を丸めて受付所を出た。去り際に振り返れば、イルカが子供達を静めているところだった。

あれ。そういえばあの人どこかで見たような…

「よう、カカシ」
「あれ…アスマ。何してんの。ここで…」
「何って…合否判定の結果出しに来たんだよ。その様子だと年貢の納め時らいしな」
「…みんななんでそういうかねぇ…」

くくくと笑うアスマの傍には、下忍に受かったのだろう3人の子供達がカカシを見て、軽く頭を下げた。

「ま、何かあったら遠慮なく相談しろよ。一升瓶でのってやる」
「…はいはい」

そんじゃねと、片手を上げて歩き始めると、再び受付所が五月蠅くなった。そして、イルカと思われる怒号。

「お前らっ!!静かにしろっ!!!」

…あれ?
その声を聞いて、カカシは思い出す。鼻の傷…忍らしくない忍…。

「ああ…なんだ。あいつか…」

半年前ほどに見た、人の良さそうな忍。

「そういえばイルカって言ってたっけ…」

あの時の怪我はもうすでに癒えている。思わずそれに触れて、カカシはふーんと呟いた。

「これからが大変そうだねぇ…」

あんな甘い忍に育てられた下忍達。これからどうなることやらと、カカシはいつもより背を丸めてアカデミーを出ていった。

甘い(2003.9.11)