「「先生っ!!!遅ぉいっ〜!!!!」ってばよ!」 「遅い…(怒)」 いつものように、担当する下忍達の待ち合わせに、3時間ほど遅れて到着したカカシは、いつもより数倍怒っているらしい部下達に首を傾げた。 「?ああ、今日はだな〜」 「そんなことよりっ!!!早く行きましょう!!!」 サクラに遮られ、言い訳しようとするカカシの言葉は遮られた。 「え〜と?」 「早くってばよ!!カカシ先生っ!!!」 ガシッ! ナルトとサクラががカカシの両腕を掴む。 「え、と?何おまえら…」 「今日は小鳥の巣箱を作る任務よね!サスケ君!場所はこっちでいいのよね!?」 「ああ。問題ない。走れば10分もしないで着くだろう」 「…ってサスケ。何でお前が任務書を持ってるわけ?」 自分の懐にあるはずなのに…と呟けば、サスケがぎろりと睨み返してきた。 「お前、昨日受付所に忘れただろう」 「……あれ?」 そういえば、任務書を読んだ後、それがどこに行ったのか記憶がない… あれ?でも、そうしたらサスケがわざわざ受付所に行ったのか??? 何故?? 「そんなことより早く行こうってばよ!!!急がないと駄目だってば!!」 「そうね!こんなことに時間を無駄にしてる暇はないわ!!!」 「ああ、馬鹿を相手にしている時間がもったいない」 「お前らね…」 ひくっと覆面の下で、カカシが顔を引きつらせながら、彼らが急いでいる説明を求めようとした時、サクラとナルトがいらだたしげにカカシの腕を放した。 「もう!先生なんて置いて行きましょ!!!」 「それ、賛成ってばよ!!!」 「よし」 「あの〜?ちょっと…」 ドピュ―!!!! カカシの何か言いかけた時、すでに部下たちの姿はなかった。何もないところへ伸ばされたカカシの手が妙に虚しかった。 「あ〜やってる、やってる」 上司を置いていった腹いせにと、わざとゆっくり来たカカシだったが、部下達はそんなことを気にも止めず、作業を始めていた。 ナルトとサスケが釘を打ち付け、屋根をサクラがペンキで塗っている。 いつもなら、ナルトとサスケがくだらないことで競い合うというのに、今日は協力しあっているから不思議なものだ。 「…雨降るかな…」 すがすがしく晴れ渡った空に、カカシの呟きが消える。 ぼんやりと立っていれば、必ずナルトかサクラから非難の声や視線が向けられるのに、それもない。 「…なぁ、お前ら今日に限ってそんなに必死なわけ?」 ……… カカシの問いに答える声はない。 トントンと釘を打ち付ける音や、ぺたぺたと捌けを動かす音だけが聞こえてくる。 「ねぇ」 ……… もう一度問いかけても、かけられる声はなく、サスケが板をよこせと言えば、ナルトが渡し、ペンキの乾いた屋根をナルトが打ち付ける。完成した小箱をサクラがどこかへ運んでいく。その信じられないほどスムーズな流れ作業の中でも、彼らは必要以上声を出さない。 …普段が普段だけに、かなり不気味だ。 「なぁ、お前ら本当にどうしたわけ?何か変なものでも…」 「うるさいわよ!カカシ先生!!!邪魔しないで!!!」 …サクラに怒られた。 それでも、カカシはめげない。 「う〜ん、でもね〜」 「いつものように、本でも読んで居ればいいってばよ!!!」 …次はナルトに。 「……あのさ〜」 「黙っていろ。仕事の邪魔だ」 「………」 最後のサスケの一言に、カカシの首ががくりと落ちる。カカシはいじけながら、近くの木の上に昇り、ふて寝をし始めた。 三人が作業の手を止めたのは、とっくに昼も過ぎた所。巣箱作りもほぼ終わり、あとは木の上に取り付けるだけになっている。少し疲れた顔で三人が遅い昼を広げ始めた。そこへ、カカシが降りてくる。 「ごくろう様〜これなら早く終わるな〜」 「カカシ先生が早く来てくれれば、もっと早かったんですが」 「本当だってばよ」 「まったくだ」 「……お前ら…」 折角誉めたのに、帰ってきたのは、相変わらず辛辣な言葉。まぁ、その原因を作ったのはカカシなのだから、誰が聞いても仕方がないと思うだろう。でも、ここで引けば、カカシの聞きたいことはわからない。カカシは、ぐっと堪えて唯一見える右目で、にっこりと笑う。 「んで?何でお前ら今日に限ってチームワークいいわけ?」 三人が、ふと視線を合わせる。 「なんで?」 あと一押しだと確信したカカシが、もう一度尋ねると、サクラが小さく唸っていた。サスケが目線で放っておけと言っている。 「今日、用事があるんだってばよ!」 今まで静かにしていたせいか、ナルトがついにしゃべった。 だろうなぁ、こいつがいつまでも口を閉じているわけないよなぁ。 カカシがにんまりとする。 サスケが小さくため息をついた。サクラが仕方がないと肩を竦める。 「私達、今日早く帰りたいんです。だから、急いでいたんです」 「?私達って…三人とも?珍しいなぁ」 誰か一人だけというならば、わかるが三人全員ということに、カカシが首を傾げる。 「だって今日イルカ先生の誕生日なんだってばよ!!!」 「…は?」 自分のことのように、満面の笑みで言ったナルト。 カカシがきょとんと目を開く。 「みんなでお祝いしようってことになって、ね?サスケ君?」 「ああ…」 珍しく、サスケも同意する。 …何だ、そんなこと。何事かと思えば… カカシは、三人の急いでいる理由に、気が抜けた。ここまで必死になって、隠しているから、よほど重要なことかと思っていたのに。 じゃあ、がんばってね。 そう言って、昼寝の定位置に戻ろうとした時、ナルトが余計なことを言う。 「ねぇねぇ、カカシ先生も一緒に行かない!?」 「…は?俺?」 「うん!!」 何で? そう言おうとしたカカシに、サクラが賛成と叫ぶ。 「そうよね!いつもお世話になってるんだから、それぐらいしなきゃ!カカシ先生!」 「ちょっと待て、サクラ。何で俺が世話になってるんだ?」 「なってるじゃない」 心底わからないという顔のカカシに、サクラは得意げだ。 「先生、報告書出すのいつも遅いでしょ。そのせいで、イルカ先生が残業になるのよ。おまけに、ちゃんと書けるのに、めんどくさいと字が汚くなって、そんなみみずがのたくった字を解読してるのはイルカ先生なのよ」 「え!カカシ先生そんなことしてるってば!?ひどいってばよ!!!」 「このウスラトンカチ…」 「み、みみず……何でサクラがそんなこと知ってるの?」 「ふふっ!くの一情報を甘く見ないでよね!」 胸を張るサクラに、ナルトがさすがサクラちゃん!と尊敬の眼差し。 「あ〜」 「だから、迷惑かけている分お礼しなきゃ!」 「………」 「そうだってばよ!」 「まったくだ」 …ここで。 そんなくだらないとか、仕事だから仕方ないでしょとか言えば、どうなるか予想がついた。 カカシはあまり気の乗らない様子ながら、はぁ…と承諾の返事をすれば、三人は満足したようだった。 「プレゼントも用意してよ!!」 「………」 そこまでするのかサクラ。 プレゼントねぇ… 作業を開始した三人を見下ろしながら、カカシは小さくため息をついた。 はっきり言って、カカシはそんなめんどうなことをしたくないし、したこともない。だから、何を送ればいいのか全くわからなかった。 それをあと数時間で考えろってのねぇ… 無茶な話だと、更なるため息。 それに、そんなに仲がいいって訳でもないのにさ…返って迷惑なんじゃないの? 受付所であい、何回か酒を飲んだことはある。だが、その時だって、偶然居酒屋で会ったぐらいだし、大した話もしたことがない。 どんな時でも、上に対する礼節を崩さない、真面目な教師。 サクラの言う通り、迷惑をかけているのは本当だが、誕生日を祝わなければいけないほどだろうか。 おはようございます。 お疲れさまでした。 受付所に彼が座ることを任務を終えた忍達は喜ぶ。何でも、そう言われると、ここに帰ってきたと安心するらしい。別にそれに文句を言う訳ではないが、誰が言ったとて同じだろうに。 報告書を出すのが遅いと文句を言われたが、人の良いあの人のことだから、同僚の残業まで引き受けているのだろう。世渡りの下手な人だ。まぁ、その分子供には好かれているようだけど?自分の部下達のように。 ふと下を見下ろすと、沢山の小鳥の巣の赤い屋根が見えた。 …そういえば、昨日会った時、目が赤かったな。 あれは完全に寝不足だろう。忙しさのあまり寝る暇もないのか… 「………」 カカシは何を思ったか、ぼわんと影分身を作り出し、部下の監視を任せると、どこかに消え去った。 「おい、イルカ!」 受け持ちの授業が終わり、受付所に向かっていたイルカだが、同僚の声に振り向いた。 「?どうした?」 彼は向かっている受付所と交代するはずの人だった。なにやら手に白いものを持っている。 何だろうと思えば、それはイルカに手渡された。 「三代目から任務だってさ」 「任務?」 「ああ、すぐ向かってくれって。何か急いでいるらしいぞ」 同僚の言葉に頷いて、イルカは任務書に目を通す。 「わかった」 「気をつけろよ…イルカお前大丈夫か?」 「え?」 「目が赤いし、隈できてる。寝てないんだろ」 「あ〜最近忙しくてさ、でも大丈夫だよ。じゃあな!」 にっこりと笑って去っていく彼に、がんばれよ〜と同僚が手を振っていた。 えーと、一本杉の…あ、あそこかな? イルカが読んだ任務書の指定場所は、里から少し離れた杉の木が立っている所だった。そこで、依頼人が待っているらしい。 イルカはすとんと木の上から飛び降り、辺りを見回した。 だが、誰の姿もない。 あれ?早かった… 「あ、イルカ先生」 「え!?カカシ先生!」 突然かけられた声に振り向くと、額当てを斜めにつけた、ナルトの上司が立っていた。ひらひらと手を振る彼に、思わず頭を下げ、怪訝そうな顔をする。 「あの…何故カカシ先生が?ナルト達は任務じゃ…」 「ああ、大丈夫です。影分身置いてきましたから」 「え?はぁ…では、何故ここへ…あ!もしかしてカカシ先生と一緒の任務なんですか!?」 驚いた顔のイルカに、カカシは違う違うと首を振る。 「俺が依頼人なんです」 「………は?」 「では行きましょうか」 すたすたと歩き始めるカカシ。一体どういうことなのか全くわからないイルカは、そこに立ちつくしてしまう。 「イルカ先生〜?」 「え!?はいっ!?」 名前を呼ばれ、我に返ったイルカは、取り合えず、カカシのもとへ急ぐ。 「あのっカカシ先生っ!」 「それじゃ、さっさと行きますか」 「は!?え、ちょっと!!!」 説明もせず、走り出したカカシ。イルカはそれを必死で追いかけながら、内心ではふつふつと怒りがこみ上げてきていた。 一体何なんだよ!!! そんな視線を向けても、走るカカシがこちらを向くことはない。…10分ぽど無言でついていっていたイルカだが、その我慢も限界も超えそうになった時、カカシがようやく足を止めた。 「つきましたよ〜」 カカシの目線を追うと… 「うわっ…」 そこには真っ白なこぶしの花が咲き乱れていた。 「この時期になると、満開なんですよ」 「…綺麗ですね…」 ほうっと感心したように花を眺めるイルカを、カカシは満足そうに眺める。そして彼を呼び寄せ、一番太い木の下に彼を座らせた。 「あの…?」 「はいはい、そこに寝っ転がって」 「はぁ?」 「ほら、早く」 「???」 イルカはカカシに言われるまま寝ころぶと、隣にカカシが座り込んだ。 「あの…?」 「俺の依頼はね、イルカ先生がここで寝ること」 「……は?」 何を言って…と起きあがろうとすれば、カカシの腕で止められた。 「カカシ先生!!!いい加減にしてください!俺は仕事が…!!」 「先生、寝不足でしょ。目、真っ赤。隈もできてる」 「そっそうですが!別に…」 「ここ数日ずっと残業なんだって?体に悪いですよ?」 「仕方ありません!仕事なんですから!」 「そうですね、だから今ぐらいは寝ていて下さいよ」 「でもっ!!!」 「そんな顔で今日ナルト達と会うんですか?」 目を見開いた彼に、カカシがにこりと笑う。そう言えば、今日ナルト達が自分の誕生日を祝うとかで来ることになっていた。 「疲れた顔のままじゃ、気をつかって帰りますよ、あいつら」 「………カカシ先生」 「安心して下さい。あいつらには何も言ってません。だから、さっさと眠って、疲れ取って下さいよ。あ、ちなみにこれ火影様も知ってますから大丈夫ですよ」 「火…火影様も!?」 「三代目に急ぎって言われたでしょ?」 どうやら、それでも戻ると言いそうなイルカに、カカシは前もって手を打っていたようだった。さすがに里長の命令ともなれば、いくら真面目なイルカでも反論はできない。 「夕暮れには起こしますから」 「……はい…」 これ以上文句を言っても始まらない。イルカはあきらめて、再び転がった。 さわりと優しい風が吹き、それとともに、ほんのりとした甘い香りがイルカの鼻に届く。 …ああ、気持ちいいな… うとうとし始めたイルカは、ぼんやりと横に座っているカカシを眺めた。何故カカシがこんなことを依頼してきたんだろう。頭にはその疑問ばかり。 彼はナルトの上司で、たまに顔を合わせるだけの間柄。偶然居酒屋で会い、少しだけ話はしたが、ここまでされるような仲ではない。 ナルト達に言われたのかな… しかし、彼らに言われたとて、彼は上忍で自分は中忍。そんなに気にすることではないのに。 あくまでも真面目なイルカはそう思いながら、カカシを眺めていた。そんな視線に気づいたのか、カカシがこぶしの花に向けていた眼をイルカに落とす。 くすり。 !!! 彼が眼で笑い、イルカは自分のぶしつけだった視線を恥じた。だが、彼はそんなことを気にしてはいないらしい。彼の長い指がイルカに近づいてくる。 「駄目ですよ。イルカ先生」 彼の手が、イルカの眼を覆った。早く眠れということなのだろう。 目元にかかる他人の体温に、イルカはどきりとする。だが、視界が暗くなったことで、イルカは少しづつ眠りに引き込まれ始め、数分もしないうちに、イルカは完全に眠りの中に落ちていった。ようやく、小さな寝息を立て始めたイルカ。手をどければ、普段よりあどけなく見える寝顔を見せている。 「あらら、そんなに他人を信用しちゃっていいのかね?」 気をおけている相手でもないのに。警戒心が薄いのか、それともそれほど疲れていたということなのか。カカシは苦笑しながら、イルカの穏やかな顔を眺めた後、ごそごそと本と取り出し、それを読み始めた。 「あ!イルカ先生!!!どこ行ってたんだってばよ!」 イルカが家に帰れば、そこには7班のメンバー。いつものようにイルカに飛びついたナルトは、後ろにカカシがいることに驚いた。 「カカシ先生と一緒だったのか?任務が終わった途端消えたからどこに行ったのかと思ったてばよ」 どうやら、彼らといたのが影分身だと最後まで気づかなかったらしい。イルカはぽんぽんと金色の頭を撫でる。だが、そのナルトはあることに気づいた。 「あ〜!!でもでも!カカシ先生手ぶらだってばよ!サクラちゃん!!!」 「ええっ!?カカシ先生!!!今日はイルカ先生の誕生日だから、プレゼントもってきてっていったのに!!!」 びしっと指を突きつけて怒るサクラに、隣にいるサスケもそうだと目で訴える。のっそりと立っていたカカシが、困ったように頭をかいていると、イルカが助け船を出した。 「そんなことないぞ、ナルト、サクラ、サスケ。俺はもうカカシ先生からプレゼントもらったからな〜」 「ええっ!?何!?」 「それは秘密だ〜ほら!ナルト!!!」 好奇心丸出しのナルトとサクラ、そして疑い深いサスケの視線に、カカシは肩を竦める。内心、言葉にしなかったプレゼントに気づいたイルカに驚きながら。しかし、ナルトはイルカの家の鍵を投げ渡されて、俺が一番〜!とサクラとサスケと供に玄関に向かっていった。 「本当に、今日はありがとうございます。カカシ先生」 「あ〜よかったですね。あいつら気づかないみたいで」 「ええ。俺の方もカカシ先生に言われるまで気づなかったから…だから、本当にありがとうございました。とても嬉しかったです」 「…あまりに気持ちよくて、俺まで寝てしまったのは不覚でしたが」 そうなのだ。イルカを起こすと言ってながら、あまりの気持ちよさに、ついカカシもうたた寝をしてしまい、目を覚ましたカカシが、もう日が落ちそうになっていたことに気づいて、慌ててイルカをたたき起こしたのだった。 ぶっと顔を見合わせ吹き出した二人。 「イルカ先生!!!」 「おう!今行くぞ!」 ナルトに呼ばれ家に向かったイルカの後について行きながら、カカシは思った。 何をあげればいいのかわからなった。だから、自分なら何が欲しいのか考えてみた。そうしたら、思いついたのがゆっくり眠る時間。隈を作るほど忙しかった彼のことだ。きっと切実に思っているに違いない。金もかからないし、別に手元に何かが残こるというわけでもないので、困りはしないだろう。そう思って、火影に依頼出せば、彼もイルカを休ませることを考えていたようで、すぐ了承された。 お前が他人を気遣うなど珍しいな。 …そんな嫌みを言われたが。 だが、改めて誕生日のプレゼントだと言うつもりはなかった。だから、あくまでもナルト達のため…そう言ったのに。 この人は。 カカシは覆面の下でにやりと笑う。 おもしろい人に出会ったものだと思いながら。 「イルカ先生、忘れてました」 「?はい?」 怪訝そうに振り返った彼に一言。 「誕生日おめでとうございます」 貴方と関わって見たくなりました。そんな意味を込めたが、それまでは気づかなかったらしい。 イルカは優しくふわりと笑った。 プレゼント・完(2003.5.30) |