「あ〜か、ちゃいろ〜にきいろ〜」 きゃっきゃと、足下に散らばる色彩を抱え空に放る黄色の子供。 そんな彼とともに、落ち葉をがさがさと抱えこみ、イルカもそれを空に放る。 風に乗ってひらりひらりと落ちる暖かい色を、2人はうっとりと眺めながら。 「…お前ら、いつまでそんなことやってんの?」 もう1時間ほども、そんなことをやって喜んでいる2人に、無理矢理連れてこられたサイは呆れたように呟いた。無論、最初は彼も参加していたのだ(ナルトに引っ張られて)。しかし、時期に飽きてしまい…というか、2人についていけなくなって、早々にギブアップしたサイは、目の前にある山積みの落ち葉を棒でつついていた。 「楽しいってばよ〜サイ兄ちゃん!」 「あ〜はいはい、イルカに遊んで貰えよ〜良かったな〜」 「投げやりだってばよ!」 むっと口を結ぶナルトに、はいはいと応えてサイは再びつんつんと落ち葉をつつく。ぷすぷすと小さな煙が上がっているのにようやく気づいたナルトは、抱えていた落ち葉を地面に返すと、とことことサイの元へ駆け寄っていった。 「イルカ兄ちゃん、サイ兄ちゃんは何やってるんだってば?」 途中しっかりとイルカの手を繋ぐことを忘れず、そう聞き返すナルトにイルカは応えず、笑ったままサイの側へと共に歩いていった。 「何だと思う?」 「あ、暖かいってばよ」 「たき火って言うんだよ。サイは寒がりだから」 「…何もしないと冷えるんだよっ!ったく…」 ぶつぶつと言いながらも、落ち葉をつつくことは止めないサイに、ナルトは興味津々。 「なんかいい匂いするってば」 「…サイ、どっからそんなもん持ってきたんだよ…」 「カイロ買いに行ったとき」 きっぱりとそう返す彼に、イルカはやれやれと肩を竦めそんな2人の様子をナルトは不思議そうに見ていた。 「そろそろかなぁ〜」 ぽいぽいと山になっていた落ち葉を崩し、サイはごろんと銀色に包まれた物体を外に出した。ぎょっとするナルトの頭をイルカは撫で、銀色の紙を取り去るサイを2人は見守る。 「あっ!」 「お〜さすが俺。ナイスタイミング〜」 あちい!と言いながら、サイがそれを二つに折れば、黄金色が顔を出す。見るからに美味しそうな色とにおいに、ナルトの目が釘付けになっていた。そんなナルトを見て、サイは苦笑しおいでと手招きする。 「熱いから気をつけろ、これに包んで食べろよ?」 割った片方をハンカチで包み、ナルトに渡してやるとナルトは目をキラキラさせて、それを受け取った。 「あつっ!!」 「あ!お前っ!今注意したばっかだろうがっ!何で食いつくんだよっ!!!」 うぎゃぁっと、叫ぶナルトにサイは慌てナルトを叱った。言葉よりも焦ったサイの態度がおかしくて、イルカはついくすくすと笑ってしまう。 「イルカっ!!」 「ゴメン。ナルト大丈夫か?ほら息かけて、少し冷まして食べるんだよ」 ナルトの隣にしゃがんだイルカは、ふうふうと息をかけ、少し恨めしげにそれを見るナルトへ食べてごごらんと言う。舌の火傷によっぽど応えたのか、警戒していたナルトだったが、イルカの言葉を信じてぱくりと囓る。 「旨いってばよっ!!」 ほっぺたを赤くして、きらきらと笑顔を浮かべるナルトに、イルカとサイは微笑んだ。 「これ何て名前なんだってば?」 「イモだよイモ。でも焼いたから焼きイモ。やっぱ秋の風物詩って言ったら焼きイモだよなぁ。ほら、イルカ」 「ありがと…ってこの前は柿とか言ってなかったか?まだ固いのを食べるのがいいんだとか言ってさ」 「それはそれ、これはこれだ。どっちも旨い」 「柿?それ美味しいのかってば?俺も食べたいってばよ!」 「何だ食ったことないのか?じゃ、今度やるよ」 「やったってばよ!!」 開いている手でガッツポーズをしながら、ナルトはもう冷ます必要のなくなった焼きイモを一生懸命に頬張る。むぐむぐと食べる姿はまるでリスのようで、イルカは笑いが止まらなかった。 「ゆっくりでも大丈夫だよ。ナルト。喉詰まらすよ?」 「大丈夫だってば…ぐっ!?」 「言ってる傍からやるなーーー!!!」 水を飲んでどうにかイモを胃に流し込んだナルトは、罰が悪そうにエヘヘと心配している2人に笑った。 「ったく…」 「ごめんってばサイ兄ちゃん、イルカ兄ちゃん」 「ナルトは少し落ち着かないとな。もう5歳なんだから」 「わ…わかってるってばよ!俺はもう子供じゃないってば!」 虚勢を張り、ぷうっと膨れる子供。そんな彼が可愛くて溜まらないイルカは、はいはいと応えて頬についている屑を払ってやった。 「もう一本食うか?」 「本当!?食べるってばよ!!」 わーいとナルトはサイに飛びつき、彼の手がイモを割るのを楽しそうに眺める。子供じゃないと言いながら、その行動はどこを見てもまた幼くてイルカはそんなナルトを愛おしげに見守っていた。 「兄ちゃん達といると知らないことがいっぱいあって楽しいってばよ!」 落ち葉がガサガサと音を立てることも、空に投げれば青い空を溶け合ってより一層綺麗に見えることも、焼き芋が熱いことも、柿という果物があることも、ナルトは今まで何も知らなかった。 誰もが知っていることをナルトは知らない。教えてあげる人も、上げられる状況もなかったから、イルカとサイが来てくれた時はいつも楽しいし、嬉しい。 彼らは外の人たちとは違って、ちゃんと自分の言葉を聞いてくれる。目を背けず、触れあうことを許してくれるから。もっともっと彼らと一緒にいたい、ずっと側にいたい。 我が儘を言っても笑って受け止めてくれる、許してくれる彼らに一歩でも近づきたい。それが最近できたナルトの夢だった。 疲れ果て、眠るナルトの頭をイルカは何度も撫でる。まだあどけない寝顔。そして小さな体。言葉を交わさなくても、側にいるだけでこんなに愛しい。 「イルカ。ナルトが…忍になりたいって言ってるって知ってか?」 それを後ろで見守っていたサイは、こちらに背を向けているイルカに問いかける。しばらく反応がなかったが、イルカがああ…と頷いた。 「…そうか」 なら良い。 サイはそれ以上何も言わず、部屋から出ていった。気配も消えたが近くにいるだろう、イルカを気遣いナルトと2人っきりにしてくれたことに感謝する。 「忍か…忍になんて…」 人の命を奪い、そのことに苦しみ、傷つく道になんて歩かなければ良いのに。 だが、ナルトがいつかその道を選らずことも予感はしていた。何しろ忍の自分達が側にいるのだから、他のことを知らないナルトが自分達に憧れることはわかっていた。 わかっていたけど。 「…後、どれぐらい俺はお前の側に居られるんだろう…」 それが許されるのだろう。 こうやって、頭を撫でてあげることも。 それがずっと後のことであればいいと、イルカは願うしかなかった。 「またねってば!イルカ兄ちゃん!サイ兄ちゃん!」 最初は涙を溜めて見送ってくれた子供も、また会えるまでの辛抱だと笑顔で送り出してくれるようになっていた。 「ああ。またな」 「サイ兄ちゃん!次来る時は絶対に柿もって来てってばよ!」 「…はいはい、柿でも梨でも栗でも何でも持ってきてやるよ」 「梨?栗?なんだってばそれ?」 説明すると長くなりそうだったので、サイはともかく旨いものっ!と一言で言い切って、それ以上聞き返されないように一足先に歩き出す。 「それじゃぁな、ナルト」 「うん…待ってるってばよ」 つんとイルカのズボンを手で掴んで、見上げるナルトにイルカは小さな頭を何度も撫でる。そうすると、少しでも落ち着くことがわかっていたから。 「じゃぁな、ナルト」 「うんってばよ!!!」 手を振り、何度も自分達の名を呼ぶ子供に後ろ髪を引かれながら2人は歩き出す。 「さて、充電完了ってとこ?また明日から任務がんばろうぜ」 「勿論。秋が終わる前に休暇貰わないと、約束果たせないよ?サイ」 「はいはいっと」 澄んだ青空と彩りに身を包んだ木の下を、2人はゆっくりと歩き続けた。 (2003.11.6) (2003.11.12) |