…最近、ちょっと面白くないわけよ。 今日の任務を終えて、報告書を提出しに行ったカカシだったが、そこにいつも居るお目当ての人はおらず、少々がっかりしながら、アカデミーを歩いていた。ふと窓の外を見れば、帰宅時間なのに校庭で遊んでいる子供達。 …あ… 目を見開けば、そんな彼らを眺めている黒髪の人。 あんな所にいたのかと、嬉しくなったカカシが見たのは。 …隣で同じように子供を見る青年。 めんどくさそうに立ってはいるが、イルカと話す様子は楽しそうで。思わずむっとしてしまう。 確か、イルカ先生の同僚。そして… 親友だと。 前に話していたことを思い出す。その時、あんまり嬉しそうに話すので、黙り込んでしまったら、彼は慌てていたが。 小さなため息をついて、その時その場を離れたが、そんな光景はたびたびカカシの目についたのだった。 「…あ〜面白くない…」 「何がだよ」 上忍室でぼそりと呟いたカカシに、隣にいたアスマが口を挟む。眠そうな目を向けて、カカシは、ん〜と呟く。 「ほら〜子供達のお守りばかりじゃない〜なんかさ、体なまるっていうかさ〜」 「ああ、まぁ、それは言えるがな」 子供達を担当するようになってから、二人に来る任務はぐっと減った。もちろん、子供達を育てることも、上忍としての重要な仕事なのだが、それまで任務に飛び回っていた彼らには、少々物足りなさを感じてしまうらしい。 「んで?何が面白くないって?」 「…はぁ?今行ったでしょ」 「嘘つけ。まぁ、いいけどな」 話を逸らしたことに気づいていたアスマだが、それ以上は突っ込まなかった。どうせ、聞いても言わないだろうし、面倒ごとに自ら手を貸そうなどという気は全くなかったから。 「あ」 「んぁ?」 外を見たカカシが声を上げた。それにつられてアスマが同じように外を見たが、そこには何もない。 「なんだよ?何もないじゃねぇか」 「…ね、アスマ、あいつ知ってる?」 「は?誰だよ」 お前が興味を示すようなもんなんて、見なかったぞ。 アスマはカカシの指さす方向を見る。 そこに居たのは、子供達に体術の授業を教えている青年だったが… 「あれが何だよ」 その人は、カカシが気にするような人ではないはず。 「知ってる?アスマ」 「あ〜確か今年からアカデミーに来た奴だろう?確か…サイって言ったっけ。あいつがどうしたんだよ」 「ふ〜ん…」 それっきり、黙り込んでしまったカカシ。アスマは少し考えて、ぴんと来た。 「そう言えば、最近お前イルカと飲みに行くんだって?」 「…それが何?」 「そういやぁ、あいつってイルカの親友らしいな…」 「………」 にやにやと笑っているアスマをじろりと睨み、カカシはそっぽを向く。 先ほどの言葉はこのことか。 アスマは笑いながら、良い暇つぶしを見つけたと彼の肩を叩いた。 「かなり、気心の知れた仲だって話だぞ?まぁ親友だもんなぁ。他人には話せないことも、色々言えるだろうなぁ」 「…何が言いたいわけ?アスマ」 「別になんでもねぇよ。ただ、親友ってそんなもんだろう?」 「…さてと、いつまでもお前につき合ってる時間はないから、帰るかな」 「お、逃げるのか?」 「…誰が?」 お前が。 無言で指さすアスマに、カカシはフンと鼻をならした。 「犠牲者は一人で十分なんだよ」 「?はぁ?何言ってるんだ…お前…しかもどこから出るんだよ」 がらりと窓を開けたカカシに、アスマは問いかけた。しかし、カカシは何も言わない。 「じゃぁな、がんばれよ」 「?カカシ…?」 「やっぱり、居たのねアスマ」 「!?紅…」 上忍室に入ってきた紅を見て、アスマは内心「げっ」と呻く。何故だかしらないが、彼女はかなり機嫌が悪いらしい。そこに立っているだけで、黒いオーラをまき散らしているようだった。 「アスマ、今日暇よね?つき合ってよ」 そう宣言されて、アスマはようやく、カカシがこのために逃げたことに気づいた。 カカシの野郎〜 「何か言った?アスマ」 「…いや」 殺気だった女ほど怖いものはない。アスマは深々とため息をついた。 「さっさと家に帰っちゃおう〜と」 むかむかとした気分のまま、カカシは商店街を通る。これから、どこかの店に行って、食事をする気にもなれないので、家で食べるものを見繕うために。 「あ〜でもめんどくさいなぁ」 作るのはもちろんだが、食べるのも億劫だ。 一日ぐらい抜いたとて、死ぬわけでもないからいいかと、カカシはビールを数本買っただけで店を出た。 ったくアスマの奴…何が親友だよ。 …イルカとカカシは飲みには行くが、自分達のことをあまり話すことはない。話の話題は、ナルト達のことで。まぁ、共通点などそれぐらいしかないのだから、仕方がないと言えば、仕方がないのだが。 最近では、そのことに物足りなさを覚えていたものの、だからと言って、自分のことを話したとて、面白くもないだろうし。 「…言えるような話しもないしね〜」 人を何人殺したとか、食らった術の話しなど、酒の席に相応しい話題とも言えない。いや…言ったら絶対に白ける。 だとしたら、女の話?だが、イルカはあまりそういうのは好きでもないだろうし… ふとそう考えて、カカシは自分が妙につまらない男に思えた。 こんなのにつき合ってくれるイルカ先生も大変だね。 ため息をついて、ようやく商店街を抜けようとした時。 「カカシ先生!」 「…イルカ先生?」 人とぶつからないように、こちらへ駆けてくるのは、ここ数日見かけるだけで、話ができなかった人。 「お帰りですか?」 「ええ…イルカ先生は?」 「俺も今日は上がりなんです。これから家で何か作ろうかなと思って……カカシ先生…ちゃんと食べてます?」 「え…はぁ…まぁ、多分…」 「多分て何ですか?ビールばっかりじゃ、体に悪いですよ?食べないと体が持ちません」 じーーっとビールの入っている袋を見るイルカ。カカシは気まずい思いと、イルカと話せた嬉しさから、ごもごもと口ごもる。 「良かったら、食べに来ませんか?あ!もちろん大したものは作れませんが…」 「え?」 「あ!…もしかしてご迷惑でしたか?えーと…」 「あ、いえ!そんなことはありませんが…」 「イルカ」 いいですか?そう言おうとしたカカシを遮って、現れたのは… 「あ、サイ!」 「…サイじゃねぇよ…お前、いきなり走り出すから何だと思っただろう?あ、お疲れ様です。はたけ上忍」 カカシに気づいたサイが、ぺこりと頭を下げる。彼の手には、イルカが持っているのと同じ、スーパーの紙袋。 「あ!悪い!お前に持たせたままだったな!」 「…いいけどよ…」 カカシはそれを見て、二人がイルカの家で食事を作ろうとしていたことに気づいた。自然と、ビールを持っている袋を握りしめて、カカシは小さくため息をついた。 「それじゃ、イルカ先生」 「え…あ…」 どの面下げてその中に入れって言うんだ。 カカシは何か言いたげなイルカの視線を振り切って、背を向ける。 イルカの親友だというサイ。 彼らと一緒に食事をして、二人の仲の良さを見せつけられるとでも…?そんなのはごめんだ。 自分の知らない話を横で聞いて、自分の知らない顔を彼に向けて。 そんなの…我慢できるわけないだろう? 別に特別だと思って欲しいわけじゃないけど、自分といる時だけは、自分だけを見ていて欲しい。 イルカと話している時は、何故か穏やかになれるから。心地よい風を身に受けているような、優しい気持ちになれるから。だから…イルカと対する時を大事にしたいと思うのは、勝手な話しだろうか? 「待ってください!!カカシ先生!!」 え。 立ち止まったカカシは、自分の元へ走ってくるイルカに目を開く。彼は荒い息を吐き、カカシの前に来ると、やっと追いついたと安堵の笑みを浮かべた。 「イルカ先生?」 「さすがカカシ先生ですね、歩いていてもお早い…もう家に帰られたのかと思って、焦りました」 「はぁ…それは、すいません」 取りあえず謝って見たが、何故イルカがここにいるのか、カカシにはわからない。イルカの来た方向を見るも、サイとかいう青年はいなかった。 「あの!同じ話をまた繰り返すようなんですけど…カカシ先生。俺の家で食事しませんか?」 「え。でも、…貴方ご友人と一緒にいたでしょう?彼と食べるんじゃないんですか?そんな中に俺が行っても…」 「そんなことありません。是非来てください」 「しかし…」 さりげなく、彼が居るから嫌だと言ったのに、イルカは気づいた様子もなく、にこにこ笑っている。ただ、彼が持っているスーパーの袋が妙に気になったが… 「サイとはそこで会っただけなんです。あいつこれから、別の奴と食べに行く所だったんですよ」 「…そうなんですか?」 「ええ!あ、もしかして気を使ってくださったんですか?ありがとうございます」 「いや…」 ただ、彼と自分の知らない話題を話すイルカを見るのが嫌だったんだけど。 しかし、イルカは上忍の自分が行くことで、気を使わせてしまうのではないかと、思ってくれたらしい。 「だから、ご遠慮などしないで下さい!あ…でもご用があるなら、話は別ですが…」 「いえ、用は特にないです…お言葉に甘えてよろしいですか?」 「はい!もちろんです!あ、でも本当に大したものは作れませんよ?」 「いいですよ〜イルカ先生が作って下さるなら、何でも」 「そんな、プレッシャーかけないで下さいよ」 困ったように笑うイルカ。それを見て、カカシは何だかほっとした。 「食後にコレが役立ちますね」 「良いんですか?」 「一人で飲むより、二人の方が楽しいでしょ」 俺も嬉しいし。 そんな想いを込めたが、案の定、イルカは気づくことなく、俺もですと笑った。 「…俺は自分の胃が胃潰瘍にならないのが不思議でたまらない」 「…はぁ?」 偶然一緒になったレツヤは、隣で飲みながら、怪訝そうにサイを見たが、サイはため息だけで自分の心情を答えておいた。 ったく…こっちに世話ばかりかけるの止めろよな… イルカは偶然会っただけだと言ったが、本当は、一緒に食事をする予定だったのだ。 「今日家で飯食べないか?」 そう誘いを受けたものの、内心サイはげんなりとしていたのだが。何しろ… 「今日もカカシ先生と会えなかったなぁ…」 最近いつも話題に出てくるようになった名前。 はたけカカシ。 まぁ、最初はあのナルトの上忍だから?気にするのも仕方ないだろうと思っていたが。 どうして。 毎日毎日。 特に会わなかったらしい日は、自分を捕まえて彼のことばかり話すのか。 …いや、イルカは気づいていないのだろう、自分がカカシのことばかり話していることに。 だが、つき合わされるこちらの身になってみれって言うんだ。 「…疲れてるなぁ、お前」 「…気疲れだよ…何でっ俺がっ!!!他人のことでこんなに疲れなきゃいけないんだよっ!!!」 しかも、先ほどあったカカシの目は。 最近妙に感じる、不愉快な視線と同じ気配を持っていて。 これ幸いとばかりに、イルカに後を追えと、けしかけたのは、絶対に良かったと思う。思うのだが。 「…だったら、さっさと会えばいいだろうっ!!!」 だんっと酒の入っていたコップを、カウンターに叩きつけると、レツヤが飛び上がった。 「お…おい、大丈夫かよ?」 「何で何で何で…こんな目にあうんだよっ!!!!」 いつまでも、ぐたぐたと考えてないで、待ち伏せしてでも、相手を待てばいい。 イルカは受付をしてるんだし、カカシの任務の終わり頃は予想がつくだろう。逆にカカシだとて、イルカがアカデミーに居るのは知っているんだから。 だからっ!!! 自分だけは巻き込まないでほしい。自分は、静かでのんびりとした日常をおくっていたいんだから! 「………まぁ、とにかく飲め、な?」 普段は憎まれ口を叩くレツヤも、今日はサイに逆らわない。酔い始めたらしい彼に次々と酒を注ぎ、これは飲み潰すに限ると、自分とこの店の安全のために、レツヤは酌に励んだ。 そんな後ろで。 「なんでこの私が振られなきゃいけないのよ〜〜!!!覚えてなさいよっ!!!あの男っ!!!!」 と、こちらも叫んでいる女性を、某上忍が宥める声が聞こえてきていた。 (2003.7.15) (2003.7.23) |