再会の絆






「カカシ」
「……なんですか。三代目」

任務が終わって、家で寝ていたカカシは、突然暗部に拉致されて、気づけば目の前には三代目火影。憮然とする彼と、周りにいる忍達。彼らの顔が、複雑そうな顔をしていたので、この後何を言われるのか、カカシは知っていた。

「…また、ですか」
「うむ、またじゃ」

三代目が頷くと、周りにいる忍達も一斉に頷く。

「………で?」
「で、じゃ」

言わなくともわかっているだろう。
そう言われて。

「…わかりました。四代目を連れ戻しに行けばいいんですね」
「すまんな」

どこが、すまないだよ。
にっこりと笑った三代目の皺を睨んで、ついでに四代目をみすみす逃がしてしまった忍達も睨んで。

こっちは任務開けだって言うのにっ!!!
自分達より遙かに年下、まだ8歳のカカシの眼光に、誰もが気まずい思いで眼を反らしたのだった。




「ああ、ったくめんどくさいっ!!!」

タァンと、家の屋根を蹴って、カカシは四代目が行くだろう場所に向かっていた。
ちなみに、彼が昼寝に使っている木の上と、お気に入りのうどん屋にはいなかった。

「あとで覚えてろよ〜!!!!」

睡眠を邪魔されたカカシは、原因を作った本人に、必ず蹴りを入れると心で誓った。
トンと電柱の上に一度止まって、あたりを見回す。この辺は、町並みが良く見えると、気に入っていた場所のはずなのだが…

「っかしいなぁ…あとはどこだよ…」
「カカシ!!!」
「ん?」

別の場所に移動しようとした、彼の足を止めたのは。

「ここだって!カカシっ!!!」
「…イザヤ!?」

ぶんぶんと地面で手を振っているのは、かつてのスリーマンセルで一緒だった、イザヤだった。



「よっ!久しぶり!」
「ああ…て、お前里に戻ってたのか」
「ああ、さっき着いたばかりだ」

そう言って、にやりと笑う笑顔は記憶と変わらないけれど。

「あいかわらず、ひょろひょろだなお前」
「…うるさいな」

中忍に昇格して別れてから2年。
長期任務を希望し、里から離れたかつての仲間は、背も伸び、体も大きく、そして忍に相応しい貫禄をつけつつあった。自分より身長が高いことは、面白くなかったけど。

「お帰り」
「おう、ただいま」

するりとその言葉が出て、笑うことができた。



「3日後くらいには次の任務があるんだけどな」
「また、長期ものか?」
「ああ」

二人で近くの甘味所に入ったが、カカシは久しぶりだと言って、だんごを食いまくるイザヤに胸焼けがしていた。

まだ食うのか…?
一応彼につき合って一本を食べたものの、もともと甘いものはそれほど好きではなかったため、お茶で時間を潰しているのだが。

「お姉さん!次は醤油団子、二つね!あ、あと、あんみつも!!」
「…イザヤ…」
「ん?お前もいるのか?」
「いらん!!!」

次々とテーブルに乗る団子のオンパレードに、カカシはげんなりとしていた。

「…次はどれぐらいになるんだ?」
「ん?任務か?そ〜だな、前よりは長いかもなぁ」
「かもなぁ…って」
「まだ決まってないんだよ。いくつかあるからその中から、長いもの当てがわられるんじゃないかなぁ?ほら、俺身よりないし?ちょうどいいだろ」
「………」

長期の任務になると、いくら命令に従う忍とは言え、いい顔はしない。それが里に大切な者がいれば尚更。そうすると、この任務に選ばれるのは、身よりのない者、何らかの理由があって、里から離れなくてはならないものに行くことが多くなってしまう。
イザヤは保護者はいるが、その人とは滅多に会うことはない。忍になり、中忍の合格を告げて以来顔も見てないのだろう。
いくら彼が望んでいるとはいえ、それは…

「ところでさ、カガリはどうしてる?里にいるんだから、会うんだろう?」
「あ〜でも、あいつもお前と同じようなもんだよ」
「どういうことだよ。だって、あいつ医療班だろう?」

中忍になった途端、前から希望していた所へ行った、もう一人のスリーマンセル。しかし…

「この前だったかな、珍しい薬草が見つかったとか聞いて、飛び出していった」
「……」
「そういうの聞く度に、出ていくから、あいつがいるのか、いないのか、さっぱりわからない」
「あははは…あいつらしいな!」
「まぁ、そう言われればそうなんだけど」

私が行きます!
四代目に直談判をして、無理矢理任務許可を得る彼女に、四代目も甘やかしすぎだと思うのだが。
そう一人心でため息をつくカカシだが、彼を知る者がそれを聞けば、一番甘やかされているのはお前だろうと、突っ込まれたに違いない。

「んじゃ、今日はいないのか?久しぶりに顔を合わせられると思ったのに」
「駄目もとで聞いてみるか?」
「そうだなぁ…と、ところでお前何であんな所にいたんだ?」
「…は?」

突然話が変わって、カカシはきょとんと首を傾げた。

「ほら、電柱の上に居たじゃないか。俺、受付所でさ、お前が任務開けだって聞いたから、家に行く途中だったんだよ、寝てるだろうとも思ったし…」

「あっ!!!!」

「!?な、何だよ!!!お前っ!いきなり大声だして…」
「やばっ!忘れてた!!!」

がたんと立ち上がったカカシに、イザヤは何だと一緒に立ち上がる。

「俺、四代目探している途中だったんだ!!!」
「……はぁぁぁ〜!?」

呆れたような、イザヤの声が聞こえたが、カカシはそれを背にして店を飛び出した。


「はぁ〜いないなぁ…」
「まったく手間ばかりかけやがって…!!」

カカシとイザヤは、これまた四代目の昼寝場所となっている、静かな森に来ていた。よく、転がっている岩の上を眺め、そこに彼がいないことにため息をつく。

「けどさ、四代目を連れ戻すって…お前そんなことばっかりしてるのか?」
「雲隠れが得意なんだよ。普段護衛している忍達が行くと本気で抵抗するから嫌なんだとさ!」
「…で?お前には甘いから大丈夫だろうと」
「甘い!?どこがだっ!!!いつもいつも俺をおちょくるんだぞ!!!これも、絶対嫌がらせに違いない!!!」

拳を握りしめてそう力説するカカシだが、イザヤは心でわかってないなと呟く。

(お前がそっけないから、構ってほしくてしてるんだろうし)
「?何か言ったか」
「いや…それより早く探そうぜ?あとは…」

そうくるりと振り返ったイザヤは、こちらに向かってくる気配に気づいた。

「「「あれ」」」

思わず三人同時に声が出て。

「イザヤーーー!?」
「「カガリ!!!」」
「嘘嘘〜カカシもいるっ!!!やだっ!久しぶり〜!!!!」

ぴょんぴょんと飛び上がってやってくる少女に、二人は苦笑する。

「元気だったぁ?イザヤ!ま、あんたのことだから、ふてぶてしく生きているだろうとは思ってたけどね」
「そういうお前こそ、好き勝手やってるんじゃないのか?」
「あら、当然でしょ。自分に有利となる手段があるのにそれを利用しない手はないじゃない」

四代目に直談判はやりすぎだろう。そう暗黙に言って来るイザヤにカガリはにやりと笑って返した。まぁこういう奴だったなと、二人の少年はため息をつく。

「ね!それよりもさ!二人とも暇?暇よね!だったら付き合って!!!」
「…まだ何にも言ってねぇよ…」

そう反抗したが、当然のごとくイザヤの言葉は無視されて、先を急かすカガリに二人はしぶしぶ従う。だが、態度はそうでも心の中では。

いくら年月がたっても変わらぬことに、なつかしさと喜びを感じている二人だった。



「おっじさ〜ん、お邪魔するねぇ」
「お!カガリちゃん!お帰り!今回は早かったなぁ。目的のものはばっちりかい?」
「もっちろん!ちゃんと手に入れてきたわよ!これもおじさんのおかげねぇ!ありがとう!」
「なになに、たいしたことじゃねぇよ。これぐらいで喜んでもらえるなら、安いもんさ!食事していくんだろう?」
「もちろん!あ!今日は連れがいるんだけどねっ」

小さな居酒屋風の店に連れて行かれたと思ったら、まだ準備中の札がかかっているというのに、どうどうと中に入り、仕込みをしている店主と会話を始めてしまったカガリ。戸惑い顔の二人は、彼女が急に振り向いたことにちょっと驚いた顔になった。

「お?同僚かい?」
「うん!しかも私のスリーマンセルだったのよ!イザヤ、カカシっていうのヨロシクね」
「お…おいっ?カガリ?」
「おうおう!こちらこそヨロシクなっ!これでまた、客が増えたな!さ!はいいんな!」

さぁさぁと促され、イザヤとカカシはのれんをくぐった。どうやらカガリはよくここに来ているらしく、当然のように奥の座敷へと向かっていく。

「こっちよ!二人とも!」

メニューを広げ、頼む準備をしているカガリ。彼女の前に座った二人は、説明を求めるようにカガリを見た。

「ここのね!焼き鳥は絶品なのよ!此処以上の店知らないわよ〜絶対満足するから!」
「…よく来るのか?」
「うん、前に上司の人に連れてこられてね、気に入っちゃったの」
「ほい、カガリちゃん。オレンジジュース3つ。メニューはいつものから初めていいかい?」
「うん!お願いしま〜す!」

店主の奥さんだろうか、とても優しげな顔をした女性がグラスを運び、イザヤとカガリに向って微笑む。二人はそれを軽く頭を下げることで返した。

「ここね、私みたいな子供でもちゃんと客って見てくれるとこ。おまけに、気に入らない客は相手にしないっていう流儀の店。おじさんも筋が通っている人手ね、奥さんも優しいし居心地がいいのよ」
「あ〜それわかるな」

イザヤは初めて入った店だというのに、気後れしないことに気づいていた。カカシも自分達を迎えようとしてくれる二人の温かさを感じ、同意するよう頷く。いくら酒を飲まないからと言って、居酒屋などに入ると、客はもちろん店の方でもいい顔はしない。それを見せ付けられるたびに、もう一人前だと自負しているカカシ達は、世間ではそう見てくれないことに苛立つのだ。仕事の内容は大人と同じなのに、どうしてこういう時だけ、子供扱いするのかと。

「こんなところがあるなんて知らなかったな」
「何言ってるのよカカシ〜、あんた人付き合いなさすぎ!どうせ、めんどうだからって仕事終わったらさっさと帰ってるんでしょ?なら、見つけられるわけないじゃない!これを機会にその態度見直しなさいよ」
「…うるさいな」
「ずぼしだからって、膨れるなよ!」
「イザヤっ!!!」
「はいはい、それよりっ!乾杯しましょ!2年ぶりの再会にねっ」

オレンジジュースを手にした三つのグラスが、きぃんと鳴った。


そうして3人は、離れていた時間を埋めるように話し出す。カガリが新しい薬の開発に携わっていることや、イザヤが長期任務で見た見知らぬ世界。そして、カカシは前より過保護になっているらしき四代目の愚痴を。
話は尽きることなく湧き出て、他の客が入ってきたことや、夜が更けていくことなど全く気づかなかったぐらいに。そうして話が一段落した時、ふとイザヤが無言になった。

「どうしたの?イザヤ」

きょとんとしたカガリに訝しげなカカシ。イザヤはじっとカカシを見て言った。

「今思い出したんだけどさ、カカシ、俺達四代目探してたんじゃなかったっけ?」
「………あ」

さーーっと顔を青ざめる2人に、唯一事情を知らないカガリが首を傾げる。

「「まずいっ」」

彼を捜してくるよう言われたのは昼間なのに、もう日付が代わりそうな時間まで来ている。すっかりとそれを忘れていた二人は、泡を食ったように立ち上がり、今にも飛び出していきそうだった。だが、そんな彼らに、カガリは拳をプレゼントしてそれを阻止する。

「「カガリっ!!!」」
「あんたら、いつから声が揃うぐらい仲良くなってるの?それよりも、事情話して。先生探していたってどういうこと?」
「ああ…実は四代目が仕事さぼって…それを探すよう三代目に…」
「またぁ?」

カカシが話し終える前に、カガリの呆れたような声が挙がる。どうやら四代目の雲隠れは相当有名で、イザヤはそれで良いのかと言いたかった。

「なら早く言ってよ。簡単よ」
「…は?お前知ってるのか!?あいつの居場所!!!」
「知らないわよ」
「「…は?」」

気色ばんだカカシを一蹴し、カガリは二人を置いて、店主のもとへ行く。

「ね!おじさん!鳥の手羽先、今日出さないの〜?」
「お?手羽先かい?う〜ん、明日にしようと思ってたんだけどなぁ、食べたいのかい?」
「うん!是非是非!あいつらにも食べさせてやりたいのよ!片方は時期にまた居なくなるしね!そしたらいつになるかわからないからっ」
「わかったよ。それじゃ出すよ」
「やったぁ〜!!!」

手を叩いて喜ぶカガリ。そして他の客からも喝采があがる。

「よしゃ〜俺達運が良いぜっ!!!」
「おやっさん俺達が頼んでも出してくれない癖に〜」
「可愛いカガリちゃんの頼みなら断れるかってんだ!お前らじゃなぁ〜」
「…一体何なんだ?」
「俺が知るか」

何やら客全員が喜んでいる中、事情の知らないのはカカシとイザヤらしい。

「おい、カガリ」
「大丈夫だって私と手羽先に任せてよ!」
「…四代目と手羽先何の関係があるんだっ!!!」

そう叫んで、店を出ようとしたカカシだが、彼の頭をカガリは木の札で殴った。

「カガリっ!!!」
「落ち着きなさいって言ってるでしょ。四代目を捕まえればいいんでしょ?わかってるわよ」

ほほほとどこで覚えて来たのか、手に口を当て高笑いしているカガリ。彼女は持っていた札をくるりと回す。そこには、『手羽先あります』と書かれていた。

「どうせ、探しても見つからなかったか、気づかない内に逃げられていたんでしょ?だったら、おびき寄せれば良いのよ!簡単じゃない!」
「やっぱりそうだったのか…」

がっくりとイザヤは肩を落とす。どうりで、四代目のお気に入りの場所に行っても見つからないわけだ。大方自分達のチャクラに気づく度に、気配を殺して隠れていたのだろう。やはり火影を名乗っているだけあって、彼が本気で隠れたら、自分達が気づくことはできない。カカシは横で悔しそうに膨れていた。

「だけど、何でそれでおびき寄せられるんだよ」
「あら、カカシ知らないの〜?」

ぱたぱたと外に出て、札を掛けて来たカガリは笑う。

「ここの手羽先はいつも出てるメニューじゃないの。仕込みに時間がかかるし、おじさんが気の向いた時しか出さないから、幻のメニューとまで言われてるぐらいなんだから。その幻の手羽先ね、四代目の大好物なのよ。あの札出したら数分のうちに絶対食べに来るんだから」

ふっと腕を組んで笑っているカガリ。本当か〜と疑いの眼差しの少年。だが。

「こんにちは〜おやっさん!!!手羽先まだある〜!?」

がらりと飛び込んで来たのは金髪の青年。にこにこと満面の笑みでやってきた彼に、カカシとイザヤは開いた口が塞がらない。

「…マジかよ」
「……」

それでは、自分達の苦労は何だったのか。得意げな笑みを見せ、カガリは手を振った。

「四代目〜」
「!カガリ!帰ってたのか…って、カカシ!イザヤも…何、3人で食事してたのか!」

四代目の姿に、客達はざわりと鳴ったが、彼は気にせず元教え子達のもとへとやってくる。

「俺も混ぜてくれれば良かったのにな。ずるいじゃないか」
「え〜だって、偶然でしたし。ね?」
「…お前がさぼらなきゃそうなってたかもな」
「?カカシ怒ってる?」
「何ぬけぬけと言ってるんだっ!!!」

目の前の男のせいで、無理矢理家から拉致されたことを思い出したカカシは憤慨するも、四代目は気にすることなく、カガリと話している。

「イザヤも久しぶりだな。元気そうで良かったよ」
「四代目も」

色々な意味を込めてそう言ったイザヤ。四代目は、にっこりと笑った。

「それじゃ、俺も今から参加…」

カカシ達の席に加わろうとした彼だが。

「するのは今度にしてください四代目」

複数の忍が現れ、四代目の腕を掴み、拘束する。

「な…」
「今日さぼられた分、終えるまで寝ることまかりならぬ。三代目のお言葉です」
「ちょ、ちょっと待てっ!!!!」

彼らの手を振りほどこうと、暴れようとした四代目だが、それはカガリの一言で止められてしまう。

「店に迷惑かけたら、おじさんの手羽先、一生食べられませんよ〜」

横目で店主を見れば、彼女の言葉に頷いていて(しかも目が笑ってないし)。助けを求めるように、カカシとイザヤを見ても、彼を捜しまわされた二人は助ける気など毛頭なく。

「そんな〜」

忍達に連行される四代目の叫びが夜の空に木霊していた。


「さ、食べましょ!」
「旨そうだな〜」
「もちろんよ〜」
「あ、旨い」
「でしょ〜」

店主自慢の手羽先を食べる三人の小さな忍達。旨い料理を会話に舌鼓を打ちながら、この時を楽しむ。

どんなに離れていても、あの頃できた絆は容易に消えないと。

改めて心に刻んだ三人だった。

再会の絆・完(2003.8.22)