心への挑戦


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鬱蒼と茂る森。
はぁはぁと息を切らしながら歩くのは一人の少年。黒い髪を頭の上で一つにまとめ額には忍である、木の葉の額宛。まだ幼さの残る黒い瞳が、きょろきょろと変わらぬ森を見つめていた。
鼻の上に走る傷を困ったようにかきながら、ため息をついて再び歩き出す。
その少年…イルカはもう3日もこの森を歩き回っていた。


火影の推薦により内密に「黒の部隊」へ行くことが決まったイルカは、すぐさま組んでいたスリーマンセルを解かれることになった。
理由は遠方での任務のため。
向こうで使い走りを行う忍が足りないため、イルカが行くことになったと。
簡単な役目だが、期間は何年もかかるだろう。火影の言葉に納得がいかない顔をしていた上忍も、イルカが決めたことならばと何も言わなかった。ただ、心配そうに向けられた目に、イルカは笑いかけた。
だが、スリーマンセルを組んでいた二人の下忍は、何故そんな任務を受けたのだといきり立つ。アカデミー時代から仲の良かった二人に、気付かれぬよう説明をするのは困難だったが、それを何とかクリアしたイルカは、あの話があった日から5日後、木の葉の里を出た。
火影が指定した森は、イルカの足で一週間はかかる。しかし、ようやく着いたと思っても、その森の中にある集合場所までがさらにきつい。
森での自給自足。時折殺気を向ける獣。
スリーマンセルを組んでいた時とは違い、それらをすべて一人で対処しなくてはいけないことに、イルカはげんなりとなった。
だが、それも試験の一つなのだろう。自分でも思っていたより冷静に、状況判断をしながらイルカはゆっくりだが、確実にその場所へと向かっていた。
そしてようやく、目印の一本の木。

「…あれだ…」

安堵のため息を吐き、そこへ近づいて行く。枯れ果てた木の幹に手をつけ、疲れた体を休めようとした時、ざわりと背筋が逆立った。

「お前が受験者か」

ばっと振り向けば、そこには一人の男。
暗部の姿に面。全く気配も感じなかったことに、イルカは息を飲む。
彼はイルカを一通り眺め、小さく若いなと呟いた。
そして、一枚の動物の面を差し出す。

「…あの…?」
「ここでは全員が面をつけてもらう、許可が出るまで絶対にはずすな」
「は…い…」

差し出された面を受け取り、顔につけるイルカ。ふと、目の前にいる男と何かが違うとイルカが首を傾げる。

あ…そうか…

「何だ」
「いえ…」

微妙に変わったイルカの気配を感じ取った男が振り向く。一度言いよどんだイルカだが、彼が言葉を待っているのだとわかりそれを口にした。

「面の色…違うんですね」

今、男がしているのは同じ動物だが、色が黒い。自分に渡された面の色が白かったので何気なく言ったのだが、彼はそれを聞いて小さく笑う。

「お前のは暗部の面。俺がしているのは「黒の部隊」の面だ」

聞き返す間もなく、男はついて来いと歩き始める。イルカは軽く頷きそれに従った。


男に案内されたのは、小さな小屋だった。そこに荷物を置けと命令され、イルカがそれに従うとすぐに彼は外に出る。
後を追ったイルカがついた場所は、少し開けた場所。

「ここで待機だ」

そう言って、男の姿は消えた。

待機と言われても…
辺りを見渡しても何もない。だが、誰かがいることは確実で。自分に注がれる無数の目を感じながら、座るのにちょうど良い場所を探しその木の根元に座り込む。
じっとしても感じる自分への視線。彼らの自分と同じように「黒の部隊」に入るため集められた忍なのだろうか?
それから10分ほど経って、イルカを案内した男と彼と同じ面をつけた数人の忍が、開けた場所へと姿を現した。

「今日から一週間かけて、個々の能力を見させてもらう。本試験はその後に行われる」

その後すいっと女性と思われる忍が前に出た。

「では私の後について来てください」

彼女が歩き出すと同時に、現れた無数の影。その数は自分も入れて10人ほどと言った所だろうか。
思った通り、誰もが自分より年齢は高そうだ。

もしかして最年少…?
少し憂鬱になっていると、ぽんと後ろから肩を叩かれた。

「一週間なんてかったるな」

面をつけているため相手の顔はわからないが、声と体型から見て、自分とそう変わらない年頃の忍。そのことにほっとしていると、彼はうーんと唸る。

「話し掛けるの迷惑?」
「嫌、そんなことないよ」
「良かった。無視されたら落ち込むところだったよ」

列の最後尾を歩きながら小さな声で話し合う二人。数人の忍がちらりと咎めるように振り向いたが、黒い面をつけている忍が何も言わないので気にしなかった。
彼のお陰で気が軽くなった。とにかく一週間を乗り切ろうと決意を新たにしたイルカだった。



「…気持ち悪い…」
「…同感…」

ぐったりと横に寝そべる少年に、イルカは同意を示す。同じ小屋にはあと3人ほどの忍がいたが、何も言わないものの、彼らも同じ気持ちだろう。

開けた場所を抜け、彼女が案内したのは立て札のかけられた森。進めと指示され歩き始めると途端、幻術の嵐。案内していた女性の忍の姿はなく、まっすぐ進めとの声が聞こえるのみ。どれも初歩的なものだが、一つ解けばすぐさま別の幻術が襲ってくる。そこを何とか潜り抜けると、幾重にも分かれた道。このどれかを選べと言うことなのだろうか。
大人の忍達がそれぞれ散って行くのを見届け、イルカは少年と一緒に同じ道を選んだ。

「今度はなにかな…っと!?」
「うわっ!?」

ドゴーーン!!

「ト…トラップ!?うわっ!!!」

悲鳴をあげる暇もなく、足元からは地雷式のトラップがうねり、飛び上がれば木の上に張り巡らされた糸。

「げっ!!!」
「ちょっと!!そこ!右腕のとこ動かしたら駄目だーー!!!」

イルカの叫びもむなしく、ぷつんと音がして、襲い掛かるのはクナイの歓迎。

「どわぁぁぁぁっ!!!」
「うわぁぁぁっ!!!」

少年の悲鳴が森に吸い込まれて行った。


ぼろぼろに成りながらもどうにか無事にトラップ地獄を潜りぬけた二人。再び開けた場所に出たと思えば、そこには同じようにトラップの道を潜りぬけたと思われる忍達が待っていた。どうやら自分達が最後らしい。ようやく来たという気配が伝わってくる。

「行くぞ」

いつの間にか舞い戻っていた女性の忍は、最後に現れたイルカと少年に休む暇を与えず道を指し示す。だが、ここで文句を言うわけにもいかず、それに従った先に待っていたのは、この森に住んでいると思われる獣たち。

「無用な殺生は禁ずる」

…そんな馬鹿な。
誰もがそう思っただろうが、彼女の決定は覆ることなく。

数十キロ先にある最終地点の場所まで、彼らは逃げ回る嵌めになった。

そんなことが一週間続いたのだった。



しかしそれが、一週間続けば、まだ下忍のイルカでさえ、対処法を学び、それなりに早く潜り抜けられるようになるというもの。ただし、日を追うごとにレベルは上がっていたが。

「ようやく明日本試験かぁ…」

少年が疲れた顔でごろりと転がった。その前日とあって今日は早めに切り上げられたが、このために集まった忍達の疲労はかなり蓄積しているだろう。毎日朝から夜まであんなことばかり。わずかな休憩でその日の食事を調達し、失った武器の補充、点検。休息をすべて行わなくてはならない。

まるで訓練だと感じていたのはイルカだけではなかったようだ。
いつも一緒にいるようになった少年。互いに名も名乗りあわないが、イルカは彼との呼吸が妙に合っていると思っていた。
まだ一週間かそこらしかいないのに、互いの動きがなんとなくわかる。大人達が個々で動くのに対し、二人はいつもペアでいる。最初の頃はこの訓練を一番最後にクリアしていた二人だが、いつの間にか最も早く試験を突破するようになっていた。怪我もなく、体力を温存できるまでになっている二人。気を許せる相手が傍にいるという意識のせいか、他の忍よりは精神疲労が少ないだろう。
だが、それも今日で終わる。

明日の本試験は一人づつ行うと説明があったからだ。


夜、疲れているはずなのに目を覚ましたイルカは、他を起こさないよう静かに外に出る。
ひやりとした冷たい夜風。ずっとつけたままの面をはずし、久しぶりに顔に風を当てる。

「気持ちいい…」

夜空には満天の星。森の動物達も眠りについているため、酷く静かな森。
ここに自分しかいないような気がして、思わずぶるりと身震いする。

ナルト…元気かな…
ここに来る前、火影はもう一度ナルトに会わせてくれた。
当分会えぬからな。
無言の彼に目線で頷き返し、初めて自分を抱きしめてくれたイルカに駆け寄ってくるナルト。
どこに行くにもイルカの後を追い、その口が休まることはない。トイレにまでついてきた時はどうしようと思ったものだ。
日の下で見るナルトは青い綺麗な眼をしていた。無邪気なその目がいつまでも曇らないで欲しいと願いながら、その夜、いつまでも自分の手を離さないナルトを何度も抱きしめて、別れを告げた。

まだ一週間前のことなのに…
ホームシックにでもかかっているのかと苦笑し、再び面をつけると後ろからカサリと音がした。

「よ!眠れないのか?」
「起きてきたってことは君もそうだろう?」
「ん、まぁね…にしてもすごい星だなぁ…ずっと訓練ばっかで空見る暇もなかったからな…」
「そうだね」
「最後かもしれないしな。ぞんぶんに見ておかないと」
「?最後?」

妙なことを言う少年に、首を傾げると彼はお前聞いていた?と聞き返してきた。

「明日の本試験。これまでと違って命のやり取りするんだぞ?運が悪わるければ死ぬかも知れないって言ってただろうが」
「ああ。そう言えば」
「そう言えばって…お前怖くないのか?」

あきれた声の少年に、イルカは笑った。

「怖くないわけないよ。でも大丈夫だって思ってるから」
「?はぁ?何を根拠に…」
「俺は絶対受かるよ。そのためにここに来たんだ。だから」
「…その根拠のない自信はどこからくる…」
「だって俺は強くなりたいから。やっと見つけた大事なもの。それを守るためにまだ死んでなんかいられない」

きっぱりと言い切ったイルカに、少年は無言になる。

「君は?もうあきらめてるの?」
「…馬鹿言え…そんな訳ないだろ」

少年の言葉には、イルカと同じような強い決意の響きが合った。何かは知らないが、彼も自分と同じように心に大切なものがあるのだろう。

「必ず受かろうな」

二人は頷きあった。

(2003.3.20)




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幻の洞窟。

イルカの前にはそう呼ばれる今日の試験会場があった。
大人をすっぽりと飲み込める高さと深さ。まだ日が高いというのに、その先は見えず、不安を煽る。

いつも一緒にいた少年は、イルカより先に呼ばれて行ってしまった。一瞬向けられた顔が互いの健闘を祈っていると思ったのはイルカの気のせいではないだろう。

じゃり。
顔を上げ、イルカは一歩踏み出す。

ここに入れば戻ってくることはできない。
ただ、前進するのみ。


ひんやりとした冷たい土の壁。時々聞こえる水の音は、地下水か。

洞窟の中央にある円い宝玉を取ってくること。
それがこの試験の突破条件。

慎重に、警戒をしながらイルカが進んで行くと、やがて目の前に白い霧が広がって行く。

幻術…!
誰かの気配を感じ取り、イルカは目を瞑り精神を研ぎ澄ます。彼が再び目を開けた時には、洞窟一杯に広がっており、前も後ろもわからない状態だった。
ひゅっと風を切る音。

それが試験の始まりだった。


くっ…!!!
狭い場所でどこからともなく襲い掛かってくるクナイを避けながら、イルカは前に進んで行く。だが、不意に彼は足を止めると、手裏剣を取り出し前方に投げつける!

ドン!!!

用意されていたトラップを潰し、足元に張り巡らされた糸を踏まないよう、洞窟の壁にチャクラで足を吸引し、そのまま走り抜ける。
先ほど潰したトラップと違い、あの糸の傍からは火薬の臭いが立ち込めていた。あれを切れば爆発し、洞窟の壁が崩れ自分が下敷きにされかねない。だが、そのまま無事通り抜けられるはずはなく、炎の球や水の槍がイルカに襲い掛かってきた。
印を切りながらそれを防ぎ、あるいは相殺し、あるいはそれを利用して、イルカは洞窟を進んで行く。暗闇で時間間隔などはさっぱりわからないが、不思議と焦りはなかった。やがて見えてきた空洞。その真上から注がれる日の下に、彼の求めるものが静かに煌きながら待っていた。


「…今年は優秀なのが多そうだな」

一人の男の呟きに、今回の試験管をしている「黒の部隊」の面々が頷く。

「特に最年少のあの二人の動きがいいかと。あの年齢の割に落ち着き、冷静に対処する姿は見事かと」
「だがよ…あいつらにあれが耐えられるかな?」

くくくと面白げに笑う男に、女性の忍が嫌そうな気配を漂わせる。

「耐えてもらわねばならん。耐えられなければ「黒の部隊」には不適格だ。術に対処する技術は後でも覚えられる。だが、心はそうはいかん」

見せ掛けの強さは何の役にも立たないのだと、最初に言葉を発した背の高い男がそう言った。

「さあ、お前の本当の強さを見せてもらおうか」

宝玉に手を伸ばすイルカを彼らはじっと見ていた。



何…?
宝玉に触れた瞬間、イルカの景色がなくなった。
すっとまるで別の空間に放り出されたように、何も感じられない真っ黒な場所。
驚きをすぐに消し去り、辺りを伺うがイルカの警戒に引っかかるものは何もなかった。

一体何が…?
何かアクシデントでも起こったのかと、振り向いた時。

「どうしたの?イルカ」
「!?」
「どうした?イルカ」

懐かしい…死んだはずの両親がいた。

「と…うちゃん…?かあちゃん…?何で…」
「何て顔をしているの。私を見て幽霊を見ているような顔をしているわ」
「何を寝ぼけているんだ。さっさと目を覚ませ。こら」

ぽんと父親に頭を叩かれ、イルカが周りを見れば、そこは…自分の家だった。
母親はいつものように台所に立っていて、父親はちゃぶだいの傍で新聞を読んでいる。イルカがぼけっとその隣に座っていると、母親が手伝ってくれと声をかけてきた。

「あら。今日は素直ね。いつも文句ばっかり垂れているのに」

くすりと笑った母親を見て、イルカの胸にじんとした何かが広がっていく。

泣きそうだ。
慌てて顔をそらしたイルカに、母親が眉を寄せる。イルカのいつもと違う様子を父親も感じ取ったのか、新聞を折りたたみ、食器を並べるイルカを心配そうに仰ぎ見た。

「どうしたんだ?お前」
「なんでもないよ」
「具合でも悪いの?」
「だから大丈夫だって!!!」

二人から顔を背けたイルカは、母親の鏡台に写る自分の姿に息を飲む。
今のイルカは二人を失った時の姿。子供に戻っていると目を丸くした途端、ぐりっとイルカは首を捻られた。

「!?」
「嘘おっしゃい!!!こんなに大人しくて、素直なイルカな訳ないでしょう!!」
「そうだぞ!!!どっか悪いのかっ!!!」

失礼なことを叫ぶ二人にイルカは苦笑する。
イルカの両親は忍だ。任務に出ていることが多く、イルカが一人で家にいることも多かった。として二人が揃い、一緒に朝食を取れることも珍しい。
…これは自分がいつも願っていた光景だ。そしてこのぬくもりも。

「イルカ…?」

抱きついてきたイルカを困惑しながら受けとめ、父親と目線を交し合う二人。

「母ちゃん…俺のこと大事だった?大切だった?」
「?何を言っているの?どうし…」
「守りたいものだった?」
「そんなの当たり前だろう!どうしたんだお前…」

狼狽する父親にイルカは小さく微笑む。

「俺そんなのずっと当たり前だと思ってた。無くして初めてわかったんだ…悲しくて、悲しくていつも泣いてた。力があればそれを埋められると思っていた。でも違ったんだ」

二人の目を真っ直ぐに見て。

「そんなんじゃ、二人には追いつかない。父ちゃんと母ちゃんが残してくれた未来への道。消し去ろうとしてた。でも気付いた、わかった…教えてくれた子供がいたんだ」
「イルカ…」
「だからもう大丈夫だ。俺もう大丈夫。だって、俺にもできたから、二人と同じ守りたいもの。その子を守るために俺強くなることに決めた。だから…」

幻影はいらないよ。

ふっと触れていたぬくもりが消える。真っ暗な闇の中に、浮上するような感覚。
閉じていた目を開ければ、そこは洞窟の中。そして手のひらほどの宝玉…

イルカはそれを静かに見つめる。そしてそっと宝玉に触れた。

「ありがとう…」

それはイルカの心に眠る願望。
原因がこの宝玉かどうかは知らないが、あのままこれが幻なのだと認められなければ、イルカは永遠にあの中に捕らわれていただろう。
幻。

だが、もう一度彼らに会えるとは思わなかった。夢で会いたいと思っていても一度も会えなかったから。
あの暖かかったぬくもりをもう一度感じられたから。
だから。

ありがとう。


イルカは小さく微笑み、宝玉を手に取った。そして細い、遠くに光が見える道へと歩いて行った。




「ごくろうさん」

よっと手を上げた少年に、イルカは同じように手を上げる。互いにどうにか突破したようだなという、無言の語りを陳べて。
そして二人はそのまま近くの木によしかかり、何も言わず空を見上げる。

「また見れたな…」

朝始まったはずの試験は、空に星を飾らせる時間になっていた。だが、自分達以外にここにいるのは黒い面をつけた忍一人だけ。他の人たちはどうしたんだろうと思っていると、面をつけた数人の忍がこちらに向かって来た。

「試験は終了だ」

始めて見る背の高い忍がそう言った。イルカと少年は立ち上がったが、他の忍の姿が見えないことに困惑する。

「今年の合格者はお前達だけだ」
「え…」
「俺達…だけ?」

まさか。そんな思いを込めて二人は顔を見合わせる。

「他の忍は…最後の宝玉の審判を打ち破れなかったの」

最初の日に集まった忍を案内した女性の忍がそう言った。

最後の…ってあの幻のこと…?

「あの宝玉は、人の心に眠る最も大事なものや深い傷を呼び起こして見せる。他の忍はそれに飲まれ、打ち破れず幻に取り込まれた。…現実を見つめ自覚し、本当に大切なものを見失わなかったのは…お前達だけだ」

彼らは頷くと、徐に面を外し始める。驚く二人にも、もう面をはずして言いと許可を与えて。

「お前達は今日からこの「黒の部隊」の一員。新たなる仲間を迎え入れることを歓迎する」

背の高い忍は、落ち着いた声から感じていた印象よりも若かった。切れ長の目と細い唇。男性とは思えない美貌の持ち主だ。
自分達と一番接することが多かった女性は、とても優しげな顔をしている。ここにいなければ忍とは見えぬほど、血なまぐさい所が似合わぬ人だと思った。
そして、最後の忍は二人が始めて会う忍だった。彼も二人と同じく若いが、どこか軽薄そうな印象を受ける人だ。彼はイルカと少年を見て、にやりと笑った。

イルカと少年も面をはずし、ようやく互いの顔を見ることができた。
思っていた通り、同年代頃。アカデミーで見た記憶はないが、少し眺めの前髪が邪魔そうだ。

「…お前ら確か15歳だよな?」
「それどういう意味ですか?」
「いや〜もっと下に見えるから」

イルカと少年がむっとして軽薄そうな忍を見る。女性がやれやれと肩を竦めた。

「それぐらいにしたら?レツヤ。嫌われるわよ」
「大丈夫だって。こんなことで機嫌悪くならないよな?」
「いえ、すでに悪くなってますから」
「なんか女たらしそう…モテないけど」
「お前!モテないってどういうことだよ!!」
「事実をついているじゃないの」
「るせぇぞ!!!サヤカ!!!」

少年に食って掛かろうとしたレツヤは、サヤカと呼ばれた女性へと矛先を変えた。少年はイルカに体を向け、あいつ馬鹿だなと呟いた。

「俺サイって言うんだ。お前は?」
「俺はイルカ。ようやく名前わかったね」
「本当だよなぁ。あんなに一緒にいたのに」

くすくすと笑い合う二人に、背の高い忍が近づいてきた。

「私はサガラ。これからよろしくな。明日任務に出ていない仲間に引き合わせよう」
「「はい」」
「では行こうか。今日はゆっくり休んで欲しい。明日からは厳しい訓練が待っている。それは想像を絶するほど苦しいだろうが、どうかそれを乗り越えて欲しい」

慈愛に溢れた言葉に、イルカとサイは頷いた。それを見た後、サガラはまだ喚いているレツヤを黙らせにいった。

…ようやく一つ。
力を得るための壁を一つ突破したとイルカは思う。もちろん、これからの壁はもっと長く苦しいものだろうけれど、それでも里にいるナルトのことを考えれば必ず乗り越えて見せると、断言してみせる。

「こっちだ。イルカ、サイ」

サガラが延ばした手は、二人の進む未来への扉。

心への挑戦・完(2003.3.22)