書棚に仕舞われている本や巻物の類は無造作に並べられ、床には積み重ねられて出来た本のタワーが幾つもある。
久々に晴れた休日、イルカは好い加減雑然としてきた書庫を片付けていた。
紙を傷めない為に日があまり射し込まない、薄暗くひんやりとした部屋で彼は汗を流して忙しなく動いている。「あ゛っ・・・」
書棚の中でも本は積み重ねられており、場所を移動させようとした1冊を引き抜いた時に事は起こった。その1冊が引き金となり、『まずいっ!!』と思った時には既に遅く、頭上から大量の本などが降って来る。
盛大な音を立てて辺りに散乱する古い書籍や巻物にファイル。
舞い上がった埃は僅かな光を受けてキラキラと反射している。
イルカは辛うじて降ってきた物の下敷になるのは免れたが、突如として起きた天然トラップの発動に暫く動悸を激しくさせて凍りついた。そして、起こった惨状に深く溜息を吐いて肩を落とすと、片手を額に当てて天井を仰ぐ。その時、ふと煤けたアルバムが視界に入った。
彼はそれを手に取ると、その場に胡座で座して中を開く。長い年月閉じられたままだったアルバムはシートが張り付いて、開く度にペリッと音を立てて抵抗感があった。
「これ・・・こんな所にあったんだな・・・」
両親が亡くなって慌ただしかった頃に今回のように見付けたそのアルバム。
途中で寂しさに負けそうになり、早々に目に付かないところに片付けた、それ。
イルカは呟いて、少し寂しそうに笑んだ。
そこに収められているのは幼い自分。
笑顔から泣き顔、困った顔と、様々な顔が写っている。
1ページずつ目を通し、海水浴の時の写真に行き当たった。

両親の休みが珍しく連休となって重なり、近場だが泊まりで海に連れて行ってもらった。
初めて連れて行かれた海の大きさに驚いたのを覚えている。
彼等と行ったのはそれが最初で最後となってしまったが、とても楽しくて大好きになった。
遠目でしか見られなかったが同じ名前なのだと教えられた、子供の目にも綺麗だと感じた海の生物。
運良く見る事が出来た、腹の底に響く音を立てて海上に咲いた夜空の大輪の花。
懐かしくも切ないような、数々の思い出。
イルカはアルバムを胸に抱いて、
「・・・もう、大丈夫。見ても悲しくない。寂しくないよ」
呟くように誰に聞かせるともなしに言った。
今は傍にいてくれる人がいる。
寂しいなんて感じさせてくれない程に騒がしくしてくれる人がいる。
アルバムを閉じ、イルカは愛しそうに微笑んで表紙を一撫ですると、本棚の取り易い位置にそれを仕舞った。
暑い陽射しと記憶の底
楽しさ切なさ織り交ぜて
夏空見遣りて思い出す
夏の思い出
夏想い。
−END−
2003.8.1
桜 卯月様より頂いた暑中見舞い作品です!スイカと一緒に転がりそうなイルカがなんとも言えず可愛いですよね〜!カカシ先生がアルバムより盗み取らないことを願うばかりです(笑) 桜 卯月様ありがとうございました〜
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