くの一なんだからいつかは『色』の仕事があるんじゃない・・・?

桐生様よりさくら小説



「・・・はい、分かりました」

少女はどこか呆然として目の前にいる上司にそう答えた。
上司が無言で頷いたので、彼女はフラフラと頼りない足取りで自分の席に戻る。
(ど〜しよ〜・・・・・)
その一言がグルグルと頭の中を回っていたため、上司が心配そうに自分を窺っているのに気づかなかった。








「よしっ」

短く気合を入れて少女は立ち上がる。
一日の仕事も終わり、職場から出た彼女は一人、公園のベンチに腰掛けていた。
自分の思いつきに満足したらしく、表情はいくらか明るくなっている。
腰に下げたポーチから何やら、筆記用具を取り出した。
(やってやるわ!!)
片手にメモ張、片手にペンを持ち改めて気合を入れる。
(最初は〜・・・)
うん、と一人頷き誰もいないはずの背後を振り返ったのだった。















「男の人ってどんな事すると嬉しいですか?」

未だ少女と呼ぶにぴったりの少女の口からそんな言葉が出てきたら誰だって固まるだろう。
現にその質問をされた青年は、いや青年だけでなくその周囲にいる者も固まっていた。

「聞いて回っているのですか?」

真っ先に正気に戻った青年が少女の手に持っている物を見てそう聞く。

「そうなんです。お願いします」

少女が必死に頼み込むが、段々と正気戻った者たちが騒ぎ出した。

「ま、まだ早いんじゃないか?」

オロオロと止める者。

「あ〜、でも早いってほどじゃないんじゃない?」

ちょっとビックリしたけどと、全く止めない者。

「そんな年なんだな」

同じく止めずに何だか納得している者。

「自分がよければいいのではないか?そういった仕事が入ってこないとは限らないのだから」

止めるどころか、どちらかというと勧める者。 様々である。
結局、彼らは1名を除いて少女が彼らの想像しているような行為をしようとしている訳ではないと理解しているのだ。
が、一人黙っている者がいた。よく見ると肩を震わせている。

「何考えてんだっ!!」

少女がその顔を伺おうとした途端、耳鳴りがするほどの大声で怒鳴った。

「まさか、身近な男連中にも聞いたんじゃないだろうな!?」

耳を押さえる少女も気にせず、青年は怒鳴りつける。
少女は少し涙目になりながら、顔を上げた。

「・・・身近って、同期の子とか?ううん、彼らに聞いてもしょうがないと思って・・・」

「上忍にも知り合いいるだろう」

答える彼女に、彼はいくらかトーンダウンする。
何が言いたいのか理解できず、少女は首をかしげながらも顔を横に振った。

「会ってないし、一番にここの人たちが思いつきましたから」

それが?と問うように青年を見つめる。
青年はその答えにホッと息を吐いた。

「なら、いい。・・・って、ちが〜〜うっ!!」

再度の青年の怒声に少女は肩をすくめる。

「お前はっ!もう少し恥じらいを持てっ!!」

「・・・・・?」

怒鳴る青年の顔が幾分赤い気がするのは気のせいだろうか。
何のことか訳が分からず、少女はキョトンとした。

「じ、実践で教えてやるなんて言われたらどうするんだっ!!」

「え?お、教えてくれるなら嬉しいけど・・・」

おどおどと言う少女に青年は片頬を引きつらせる。
僅かにどもった青年に、周囲は「案外純情なんだな、あいつも」などと思っていることなど気づかない。
ほとんどが呆れ顔なのにも気づかず、青年は説教を続けている。

「あのなぁ、何かあってからじゃ遅いんだぞ!!」

「だって、分からないんだもん!」

怒鳴る青年に負けじと少女も強く言い返した。

「分からないから聞いてるんじゃない!!なのに、なんで怒るのよ!!」

青年の言う事が理解できていない少女は涙目になっている。
泣きそうな少女に、一瞬固まりそうになった青年が再度説教を始めようと口を開いた時、その肩を誰かが押さえた。

「なんだ、引っ込んでろ!」

「いいから、夕闇は少し黙ってて」

話が進まないと、青年 夕闇の同僚の朝飛が睨む。
その隙に、今にも泣きそうな少女の下に彼女の恩師の青年が声を掛けていた。

「大丈夫ですか?」

「夜斗さん・・・」

「もう大丈夫ですから、泣かないでください」

うん、と呟きながらサクラは目元をこする。
それを目を細めながら見ていたイルカはサクラがうつむいているのを確認してから、夕闇にシッシッと手を振った。
(もっと離れてろ)
先生モードのイルカ。目が笑っていない。

「説明してくれますか?」

誤解が生じてますよ?と苦笑する。
そう言われて、サクラは全く前置きをしていなかったことに気づいた。

「え、あ・・・ごめんなさい。あのね・・・」








事の発端は、彼女が上司から医療班の仕事からはかけ離れた任務を言い渡されたことだった。

『木の葉の里の大口の客の接待』

酒を注いでやり、話し相手になるだけとはいえ、サクラはまだ10台半ばでそんな経験はない。
真面目な彼女は与えられた仕事を完璧にこなすため、考えに考えた。
しかし、経験がないのにどうすればいいか分かるはずもなく、途方に暮れていたサクラはハタと気づく。
(あそこなら、大人の男の人が沢山いるじゃない!!)
これは名案だと、即行動に移したのだった。
最初に被害にあったのは、年齢は近いとはいえ男で、最も身近にいる護衛のナギとヒサメだったのは言うまでもない。










『あのね、二人に聞きたいことがあるの・・・・・』

出て来てくれる?と言った彼女に逆らうはずもなく、二人は彼女の前に姿を現す。
この時、二人は医療班の事務室にまで来る必要はないと言う彼女に渋々従っていたため、サクラの言い渡された任務を知らなかった。

『二人はどんなことをしてもらったら嬉しい?』

『『は?』』

突然言われたことを理解できず口を揃えて聞き返す。

『だからー、どんなことをしてもらったら嬉しい?』

繰り返す彼女に、二人は顔を見合わせた。
(・・・何なんだ?)
(・・・さあ?)
目で疑問を交し合うが、答えが出るはずもなく、二人はサクラの方へ向き直る。
ゴホンと咳払いしてから、ナギが代表して口を開いた。

『俺達はサクラ様が笑っていて下さればそれで十分です』

隣のヒサメも、まぁそうだなと頷いている。
心なしか顔が赤くはなっているが。

『違うの!そうじゃなくて・・・』

普段の彼女であれば、そんなことを言われたら顔を赤くしてありがとうと嬉しそうに言っていただろうが、そんな余裕のない彼女は言いたことが伝わらず眉間にしわを寄せて何やら憤慨していた。

『そういうことじゃなくてー!・・・・・うーんと、ホラ、男としてどんなことをしてもらったら嬉しいかってことなんだけど・・・』

『『はイ!?』』

思ってもみない言葉にまたもや口を揃えて聞き返す二人。
動揺のためか、言葉が少しおかしくなっている。
それにも気づかずに、サクラは言葉を続けた。

『えっとさ、露出の激しい格好が嬉しいとか・・・・・、あとは・・・』

思いつかずに一人頭をひねるサクラ。
ダラダラと嫌な汗を流す二人に全く気づかず、二人の答えを待つ。

『で、二人はどんなことをされると嬉しい?』

『えっと・・・・・』

『そ、そう言われても・・・・・』

目の前の少女は主でもあり、れっきとした異性でもある。
そんな相手に、正直に言えるほど二人は年を重ねていなかった。

『・・・・・・・・・・・・そう、もういいわ』

答えをせかす少女に何も言えない二人。
サクラはため息をついてさっさと見切りをつけてしまった。

『やっぱり、大人の男の人じゃないとダメよね・・・』

そう言ったサクラに、さすがに二人も慌てる。

『ちょ、ちょっと待てっ!!』

『そ、そうです。事情を説明してください!!』

妙な相手に聞いて、取り返しの付かないことになったら…と二人は慌てているのだが、目の前の少女には伝わっていないだろう。
(そりゃ、そんなこと俺達が許さないけどよ)
(だが、部隊長クラスだと俺達では止められないだろう)
(だよな。朝飛様辺りは仕方ないですねとか言いながら普通に指導しそうな気がするぞ)
(覚眠様と夜明様も、ため息つきながらも協力しそうだ…)
(大勢いる場所で聞いたとしたら大丈夫かもしれないけど、一人ひとり個別に聞いたりしたらありそうだな)
(安全牌は夜斗様と夕闇様か…)
などと、一瞬視線を交わしただけで言い合う二人。
それなりに上司達を分析しているようだ。





事情を聞いた二人が安堵のため息を付いたのは言うまでもない。
ただし、二人が口を酸っぱくして聞くなら大勢いる場所でと言うのに、サクラは訳も分からずに頷くのだった。















そんなこんなでサクラが説明し終わるとイルカもまたホッとため息を付いた。
(何だって皆こんなに焦ってるのかしら??)
一人、訳の分からないサクラである。
そんなサクラに苦笑を浮かべてイルカが説明をしようとした。

「あのですね。それは・・・」

「事情は分かったが、何だって医療部隊がそんな仕事を請け負うんだ?」

聡明な覚眠がポツリと呟く。
ハッとしてイルカもサクラを見た。

「え、あ・・・えっと・・・今回来るのは医療大国の上層部の方らしいんです。」

だから、医療に通じているくの一をと要請が出たのだと説明する。
医療について何も知らない者が接待をして機嫌を損ねてしまったら、後々かの国との関係に響いてしまう。

「だったら、火影自身が行けばいい。医療のスペシャリストなんだろ」

鼻を鳴らして夕闇が言った。

「火影様は忙しいんです。それに、これは私に来た仕事なんですから私が最後までやり通すの!!」

協力してくれそうな節もない彼らに苛立ちながら、サクラが言う。

「もういいです。だったら、他の人に聞きます」

そう言って、森を出て行こうとするサクラ。

「ちょ、ちょっと待てサクラ!誰も教えないとは言ってないだろ?アドバイスぐらい俺達がするし。な?」

それを慌ててイルカが止めた。
慌てすぎてイルカ先生の口調になっている。

「本当ですか?」

パッと顔を輝かせてサクラはイルカに向き直った。
そんなサクラにイルカはため息をついて仕方なく「お偉いさんのもてなし方」を伝授する。
ただし、いくらかの忠告をするのも忘れなかった。

一つ、必要以上に接近するな
一つ、気を持たせるような言動をするな
一つ、上目遣い禁止
一つ、笑顔は最低限度で
一つ、極力露出の少ない格好をしろ

などなど。
気がつけば、イルカだけでなく、他の部隊長達も口を出していた。
頭のいいサクラでも覚えきれないほどのことを言われたが、真面目な彼女は一つ一つメモするのだった。










サクラがこの任務をしっかりとこなせたかどうかはまた別の話。
いつもの護衛二人だけでなく、部隊長全員がついて行っただとか
好色そうな接待相手の中年の男がサクラの膝に手を置こうとした途端、サクラには全く気づかれないようにその男だけに殺気を向けてその動きを止めさせた者達がいたとか
空になった酒瓶を変えに行こうとしたサクラを誰もいない部屋に連れ込もうとした男が行方不明になっただとか
そんなこともまた別の話。








何だかんだで、みんなに愛されているのに気づかない守座様だったのでした。





−終−

(2004.11.13)



頂いてしまいました!初さくら小説です!
もうしつこいぐらい無理を言って完成させて頂いたこの小説。何回読み直してもにやけ笑いが止まらないほどのお気に入りv
サクラが闇鴉達に大事にされていることがよくわかります!本当にありがとうございました!